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最終話 英雄伝記
「新世界の誕生の贄となって果てろ、ヒロイックロボ!」
「来る……!」
先手を取ったのはA-Zの方だった。
ハルバードを振り回し、両手で構えるゼダーク。
次の瞬間、ハルバードの先端から赤黒く禍々しい光が解き放たれ、500mはあろう巨大な剣となって振り上げられた。
「ダークネスソード」
ダークネスソード。巨大な魔剣の一撃が振り下ろされ、空を、大地を割った。
「ぐっ……!」
「凄い威力……」
すぐさま反応し、回避するEXファルガンとファルブラック。だが完全に避けても尚、その衝撃は両機を襲い、操縦桿を伝って二人にもその威力を痛感させた。
「クインデッドビーム」
「うわぁっ!」
間髪入れず、ゼダークは五門のビームからなる必殺光線クインデッドビームを放つ。
咄嗟にソウタはその一撃を躱すが、直後ゼダークに目を向けたその時には既に、ダークネスソードが形成されていた。
「逃げても無駄だ。ダークネスソード」
振り払われたダークネスソードの一撃を、すんでのところで二人は避ける。
「ソウタ、大丈夫?」
「ああ。けどこんな大技を連発してくるなんて……!」
今のところは避けられているが、これではいつまで経っても手を出せない。無尽蔵に放たれる必殺の攻撃に、ソウタとクオンは手も足も出せないでいた。
「これで終わりだ。クインデッドビーム、フルバースト」
そして最大出力のクインデッドビームが放たれ、山を、大地を焼き払う。
咄嗟に回避し、直撃を避けても尚凄まじい衝撃がEXファルガンとファルブラックを襲い、大爆発を引き起こした。
「くくく……ふはははははは!」
炎が燃え盛る中、A-Zは高笑いを上げる。まさに圧倒的な火力。その力はこれまでのヒロイックロボ、怪獣、その全てを遥かに凌駕していた。
「まだ、やれる……!」
だがそれでもソウタは、EXファルガンは立ち上がる。
「ほう。耐え切ったか」
続いてファルブラックもまた立ち上がり、A-Zは二人が予想以上に持ち堪えた事に興味を抱き、不敵な笑みを浮かべた。
「A-Z、あなたの野望はもう終わったの……。私の中の魔王は死んだ。だからもう、魔王は復活しない」
だがクオンは光の勇者と邂逅した事により、魔王の呪いからは解放されている。魔王の細胞が失われた今、もう二度と魔王は蘇る事がなく黒曜旅団の野望は潰えた。
そう、クオンは思い込んでいた。
「何を勘違いしているんだ、水無瀬クオン」
だがA-Zは余裕の表情で、その思い込みを否定する。
「貴様とファルブラックなど元よりデータ採取用のサンプルに過ぎない。もう一つの細胞を心臓に埋め込んだこの私と、ファルブラック第二号機……超魔神機ゼダークが新たな魔王となる為の、な」
「そんな……!?」
初めからA-Zは、クオンとファルブラックを依代に魔王を復活させる気など無かった。
クオンが魔王として覚醒し始めた段階のデータを採取し、そのデータを解析する事でA-Z自身が魔王になり、新世界を支配する為の礎とする。それが、予定された真の魔王復活計画だったのだ。
「今度こそ終わりにしてやろう」
「エネルギー切れ……?」
A-Zの宣告と共に、ゼダークは手に持ったハルバードを構える。
しかし今度はダークネスソードを展開してくる様子はない。あれだけ必殺技を連射したのだ。エネルギーが尽きていても無理はないだろうとソウタは推測する。
「来る……!」
「さよならだ」
ブースターから巨大な炎を噴き出しながら、ハルバードを構えて向かってくるゼダーク。
ソウタとクオンが迎え撃つべく身構えライフルの引き金を引いた時、“それ”は起きた。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
弾道から突然ゼダークが消滅したと同時にファルブラックが突然不可視の攻撃を受け、激しく吹き飛ばされたのだ。
「クオン!? うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
次の瞬間、コクピットに凄まじい衝撃が走りEXファルガンも地面に叩きつけられた。
痛みが走る中、空を見上げるとそこには既にハルバードを振り下ろしたゼダークの姿があった。
「今の、何……?」
「まるで、動きを切り取ったような……」
何が起きたのか、二人には全く理解が及ばなかった。
言えるのはゼダークが向かってきたと思えば姿が消えて、同時に見えない攻撃に襲われ、気が付くとゼダークはハルバードを振り終えていたということ。
「死ね。ダークネスソード」
「まずいッ!」
「くっ……!」
考える間もなく、ダークネスソードの薙ぎ払いが二人を襲いソウタたちは咄嗟にその一撃を避けて体勢を建て直した。
「また大技……。どこにあんなエネルギーが……」
ソードを出さずにハルバードを構えた時、エネルギーは切れたものだとソウタは思っていた。だが実際には、こうして再び必殺の一撃を振るってきている。
まさに付け入る隙なし。それほどまでに、超魔神機ゼダークの力は圧倒的過ぎるのだ。
「ここまで耐え切った褒美に教えてやろう。これが時喰エンジンの力だ」
「時喰……エンジン……!?」
無尽蔵のエネルギー。不可視の攻撃。その真実が今、A-Zの口から語られる。
「この世界に普遍的に存在している、時が流れるエネルギーを喰らい尽くし、爆発的な高出力を無尽蔵に得られるのがこの時喰エンジン。そして時を喰らう瞬間、再び補填されるまでの数秒だけこのゼダーク以外の全ての時間は停止する」
「無限エネルギーに時間停止……!?」
時喰エンジン。この宇宙に漂う時流をエンジン内部に収束させ、時の流れを加速させる事でタービンを回し無尽蔵のエネルギーを得る、黒曜旅団の魔法科学の結晶。
この装置が作動した瞬間、ゼダークのエネルギーは最大まで充填されると同時に、世界の時は一瞬だけ停止する。
これがこの、超魔神機ゼダークの圧倒的な力の源なのだ。
「そう、その通り! 決して尽きることのないエネルギーと、時を止める絶対的な力! この機体の前では、ファルブラックなど張りぼての試作品に過ぎない!」
超魔神機Z-DARK。
全高35m、重量1170t。
別名、ファルブラック第二号機。
周囲の時の流れを吸収し、無尽蔵のエネルギーを得ながら時を止める時喰エンジンを搭載した、黒曜旅団の誇る空前絶後のスーパーロボットである。
「くそっ、これじゃ近づけない!」
「近付いても時間停止が……」
時の流れの力を得て再び必殺の攻撃を乱れ撃つゼダーク。
その凄まじい猛攻の上に、近付けば時間停止攻撃が来る。八方塞がりの中、ソウタとクオンは必死に敵の攻撃を避け続ける。
「もう無価値なのだよ、その機体も! そして貴様もッ!」
目的に必要なデータを得た今、クオンはもはや不要な存在なのだと、価値のない存在なのだとA-Zは断ずる。
「違うッ! クオンは絶対に、無価値な人間なんかじゃない!」
EXファルガンが、ビームライフルを向けて放った。
クオンの存在が無価値だなどと、決して認めまいとソウタはA-Zへ銃口を向ける。
「目障りだ、作り物風情が」
「ぐうっ!!」
羽虫を払い除けるように、EXファルガンへ向けてゼダークが腰のビーム砲を放つ。
直後、ラスターブラッドセイバーを手にしたファルブラックがゼダークの直上から斬りかかった。
「確かに、私の命に価値はないのかもしれない……」
即座にゼダークはハルバードを振り上げて応戦する。
鍔迫り合いの中、クオンは呟く。彼女自身、自分の命に価値があるなど、まだ思ってもいなかった。
「けど、それを決めるのはあなたじゃない!」
それでもクオンは否定する。彼女の命を無価値と断ずる、A-Zの言葉を。
「私の価値は私が決める! 精一杯生きて、最後に死んでいくその時に!」
人の命の価値は、生きている間には誰にもわからない。他人にも、さらには自分にすら。
それが決まるのは、その人間が死にゆく時。その刹那に、人の価値は決められるのだと。
「戦いしか知らない、血に塗れた小娘が過ぎた事を」
「それでも最期に価値があったって……生きてて良かったって思えるように、私は生きるッ!」
そしてその時に自分の命が、人生が価値のあるものだったと。そう信じて笑って終われるように、クオンはこれからも生きる事を決めたのだ。
「そうだ! 俺たちはその為に、これからも生きていく! お前なんかにそれを否定させやしない!」
クオンに続いて、ソウタもまたラスターセイバーを展開しゼダークへと突撃する。
「ならば貴様らの命が取るに足らない無価値なものだということを、その身に刻み込んでやろう!」
戦う意味を、生きる意味を固めた二人を前に、A-Zがそう告げるとゼダークの瞳が強く輝く。
「時喰エンジン作動! 時よ、我が糧となれッ!!」
そして、世界の時が停止した。
「きゃあぁっ!」
「クオン!」
瞬間、ハルバードの一撃でファルブラックが地面へと叩きつけられる。
「クインデッドビーム!」
そしてゼダークはEXファルガンへ向け、必殺の光線を放った。
一方その頃……。
「ここまで来れば今は安全です! 落ち着いてバスに乗り換えてください!」
「黒曜旅団……怖いねぇ」
「お兄ちゃんたち、ありがとっ!」
「ああ。元気でな」
富士山から遠く離れた場所でGキャリアーは停止し、カズマとフウカは他のガーディアン職員と協力して避難民を合流したバスへと誘導していた。
「飴あげる! 一つはお姉ちゃんに!」
「ありがとな」
「またねー!」
避難民の少女から二つの飴玉を受け取ったカズマは、最後の住民の誘導を終えて後をバスに任せると、Gキャリアーの中で待つフウカの元に向かった。
「それ、子供から」
「さんきゅ」
貰った飴はイチゴ味とメロン味だが、適当にメロン味をフウカに手渡す。
「何してんだ?」
そして飴玉を口に含みながらもモニターに釘付けになっているフウカに、カズマは尋ねた。
「おかしい……」
「おかしいって何がだ?」
そのモニターに映るのは、今ゼダークと戦っているEXファルガンとファルブラックの中継映像。それを見てフウカは、ある事に違和感を覚えていた。
「敵の能力って、無限エネルギーと時間停止だよね」
「チートだろ。どうすんだよそんなもん……」
A-Zの言うように、ゼダークが持つ時喰エンジンの能力は時を止める事と、無尽蔵のエネルギーを得る事。一つ一つで見ると、まるで無敵にも思えるだろう。
「でも、それなら時間止めて必殺技撃てば瞬殺じゃん?なんでそれをしないのかなーって」
「言われてみれば……。つか時間停止乱発すりゃ無敵なのに、それもしてこないよな」
だがそこでフウカが気付いたのは、ゼダークの行動パターン。
本気で勝ちたいのならば、常に時を止め続ければいい。時を止めたまま必殺の一撃を加えればいい。
しかしゼダークはそれをせず、不自然に必殺技の連射と時間停止攻撃を交互に繰り返しているのだ。
「待てよ、そういうことか!」
「うん、私も分かっちゃった」
そして二人は気付いた。超魔神機ゼダークの無敵の能力の、たったひとつの欠陥に。
「あいつらに回線繋いでくれ! 早く!」
その事を伝えるべく、フウカは大急ぎでEXファルガン、及びファルブラックとの通信回線を開いた。
「ダークネスソード!」
叫びと共に、ダークネスソードの刃が振り下ろされる。
その一撃をEXファルガンが避けた瞬間、世界の時は停止した。
「があっ!!」
「ソウタ……!?」
次の瞬間、ハルバードの一撃がEXファルガンを襲い弾き飛ばした。
絶大な火力と時間停止。その二つを攻略しない限り、ソウタとクオンに勝利はないだろう。
『聞こえるか二人とも!』
そんな中、通信機からカズマの呼びかける声がコクピットに響く。
「カズマ!? 今は話してる余裕はないんだ!」
『いいから聞け!』
「なにかわかったの……?」
『ゼダークだったか。そいつの能力の穴の見当がついた』
「本当なのか……!?」
必殺の攻撃が飛び交う中で余裕のないソウタとクオンだったが、ゼダークの欠陥の見当がついたというカズマの言葉に耳を傾ける
そしてカズマとフウカは、ソウタたちにその説明を始めた。
『ああ。結論から言うと、奴は多分大技と時間停止を同時には使えない。それに大技を何発も撃った後じゃないと時間停止を使えないんだ』
『つまりつまりー! エネルギー回復と時間停止がセットだからー、エネルギーが充分に残ってるうちは回復できないから時間も止められないってわけ! だよね?』
時喰エンジンの能力は、失ったエネルギーを全て回復し、その分時間を止めるというもの。
一見すると二つのメリットが合わさった無敵の能力に見えるが、見方を変えると「エネルギーを回復しなければ時を止められない」という事になる。
つまり予めエネルギーを消費させなければ、時を止めることもできない。それがカズマとフウカの見出した、超魔神機ゼダークの欠陥だった。
「ありがとうフウカ、カズマ……」
「助かったよ」
『まあねー』
「確かに、それならこれまでの大技連射と時間停止を交互に繰り返す動きにも説明がつく……」
クオンの言うようにこれまでゼダークの動きは、必殺技の連射と時間停止攻撃を交互に繰り返していた。
その必殺技の連射が、エネルギーを消費し時間停止攻撃を繰り出す為の下準備だとしたら、カズマたちの推測は辻褄が合う。
「でもどうすればいいの……?」
「それなら攻撃タイミングは、時間停止を使ってきた直後だよ。連携して接近しよう」
「わかった」
狙うは時間停止の直後、エネルギーが全て回復したその瞬間。
仲間の機転を力にゼダークを討つべく、EXファルガンとファルブラックが飛び出した。
「まだ向かってくるとは、無駄な事を。ダークネスソード」
そしてゼダークは、ダークネスソードの刃を伸ばして二人へと振り下ろした。
「来るよクオン!」
「まずは大技を撃ち切らせる……!」
ここまでは狙い通り。先読みしていたダークネスソードの一撃を避け、次の攻撃に備える。
攻撃に回る必要は無い。ただ、避ければいい。それだけに集中して、二人は回避運動を続ける。
「ちょこまかと……消え失せろ」
「まだだ、耐えろ……ッ!」
繰り返し放たれる必殺技の猛攻。全てが一撃必殺の威力を持つそれを避け続ける中、その時は訪れた。
「今度こそ滅び去れ、模造品ッ!」
再びゼダークがハルバードを構え、ブースターに火を灯す。
次の瞬間、世界の時間は停止した。
「ぐっ……!」
衝撃が走る。ハルバードの一撃を受け吹き飛ばされるEXファルガンのコクピットで、すぐさまソウタは操縦桿を握り直してペダルを踏み、体勢を立て直した。
「まだだ! ラスターセイバー!」
そして実弾ライフルを放ちながら、ラスターセイバーを片手にゼダークへと突撃していく。
「自棄になったか。愚かな」
勝てないとわかっての特攻かと、A-Zは嘲笑し迎え撃とうとハルバードを構える。
「エネルギーバイパス直結、使用登録完了」
「今だ、クオンッ!」
瞬間、ゼダークの直下。森の中で、一つの光が輝いた。
「何だと!?」
「ラスター! ビィィィィィィムッ!」
「ぐあぁぁぁぁっ!!」
バズーカを構え、ファルブラックがラスタービームを放つ。これは突入時にEXファルガンが切り離した、長距離ブースターに搭載されていたものだ。
極太のビームで空高く打ち上げられるゼダークの中で、A-Zは叫び声を上げる。
「このまま畳み掛ける……!」
そしてファルブラックはバズーカを投げ捨て、翼を広げてEXファルガンと共に追撃にかかる。
下から放たれたビームライフルの一撃を、ゼダークが避ける。
次の瞬間、月に照らされた星空の下でクオンとA-Zが、二つのファルブラックが刃を手に激突する。
激しく火花が散る鍔迫り合い。その中でA-Zは、自らの真意を語り始めた。
「私はやらなければならないのだ! この世界に蔓延る神という神を、この世から消し去る為に!」
「神を……消し去る……?」
「水無瀬クオン、再び我が元に下れ! そうすれば、貴様の望む世界を見せてやろう!」
「私の……望む世界……」
そして、自分の望む世界。その言葉にクオンの心が揺さぶられる。
一方その頃……。
「ラスターソードッ!」
「カオスブレード」
住民の避難が済んだ無人の只野市を舞台に、ファルソード改と魔人機テレスティアが激突する。
「ぐっ!」
「ファルソード! ちぃっ、ミサイル発射!」
パワー負けし、弾き飛ばされるファルソード。すぐさまファルガノン改はミサイルを放ってテレスティアの動きを阻み、ファルソードを援護する。
「そんなもので、私は……私たちは止まる訳にはいきません」
だがその程度の攻撃では、テレスティアは止まる様子をまるで見せない。邪魔する者を切り刻むべく、フィーネはカオスブレードの刃を八木とアリサへと向ける。
「こいつ、強いぞ……!」
流石有人機というべきか、ロボット怪獣をはるかに超える力を持つ魔人機テレスティアの強さに、八木はそう呟く。
「誰にもあの人の理想の邪魔はさせない。あの人の夢見る世界の為に、私は戦う」
「お前たちの目的はなんだ!何がお前をそうさせる!」
これほどまでの力を以て何を成そうとしているのか。剣を向け、アリサがその真意をフィーネへと問う。
「この世界に、神を超える絶対的な支配者を創り上げる。それが黒曜旅団の到達点です」
「傲慢だな。てめぇらのボスがその神より偉い奴になるってか?」
「本当は誰でもいいんですよ。それを成そうとしたのが、あの人だったというだけ」
語られた旅団の目的を、八木は傲慢だと断ずる。
だがフィーネは、どこか悟ったように告げた。
「あの人なら、この世界に真の平和を齎してくれる。ですからあの人の覚悟を……絶対に邪魔はさせません」
あの人というのは、A-Zを名乗る男。A-Zならば世界を平和に出来ると、フィーネは信じていた。
故に彼女は止まらない。自身の“正しい”と思う事を為す、そのために。
富士、戦闘区域。
「私は決して神を赦さない。神などという作り物のキャラクターに媚び、縋り!あまつさえ殺人すら正当化する、そんな世界を私は断じて赦さないッ!」
刃と刃が、何度も何度も繰り返しぶつかり合う。
激闘の中、A-Zは自らの胸の内を吐露する。彼は神を憎んでいた。それこそ、全て殺してしまいたいほどに。神を信じるこの世界をも、壊してしまいたいほどに。
「だから壊すって言うのか!」
「そうだ!君ならば分かるだろう、水無瀬クオン!宗教戦争に巻き込まれ、全てを失った貴様なら!」
神に媚び縋る大人たちの道具として、その命を使い捨てられた。そんなクオンならばその憎しみも理解出来るだろうと、A-Zは問いかける。
「確かに、あなたの言う事もよくわかる……」
「ならば!」
「だけどッ!」
A-Zの言うように、彼女は神に縋る者たちによって全てを奪われた。
「もしも戦争がなくなっても……恐怖で押さえつけられた世界なんかで、人が本当に幸せになれるわけなんかない!」
それでも、A-Zの目指す悪の恐怖に縛られた世界に、人の本当の幸せがあるなど認められない彼女は剣を振るう。
魔王となり世界を支配するという、その過ぎた野望を否定する為に。
「君は私と同じなんだよ、水無瀬クオン!テロで家族を失い、神の栄光を掲げるクズ共の尖兵として使われていく中で全てを失った!君の人生は私の生き写しだった! だからファルブラックのパイロットとして、私は君を選んだのだ!」
クオンをA-Zがファルブラックに乗せた理由もまた、宗教戦争だった。
テロで幼少期に全てを失い、少年兵として戦争で使い捨てられた。その過去に自分を重ねたA-Zは、自分が神に至る為に必要なサンプルとしての、もう一人の自分としてクオンを選んだのだった。
「それならなんでまた殺そうとしたんだ! 自分の生き写しだったクオンを!」
銃を手に、ゼダークに立ち向かうソウタが問う。
そこまで想っていたのならば、何故A-Zはクオンを使い捨てのような形で殺そうとしたのかと。
「だからだよ、少年! 彼女は死ぬべきだ! 私と同じ道を辿る前に!」
だがそれもまた、彼の想いの形だったのだ。彼は自らを悪だと自覚していた。
だからこそ、自らの生き写しであるクオンには悪に染まることなく、純粋な心を胸に秘めたままこの世を去って欲しいと願っていたのだ。
「魔王の細胞なんて押し付けて生き長らえさせた上に、今度は死ぬべきだって!? クオンの命は、お前のおもちゃじゃないんだぞ!」
「ならば戦場でボロクズのように捨てられる最期の方が幸せだったとでも言うのか! 生きてきた足跡すら残せぬままにッ!!」
「だからって、命を弄んでいい理由にはなるはずが無い!」
「ぐおっ!?」
だがソウタは、そのやり方を否定する。
クオンの命を振り回すようなその行いを拒絶し、EXファルガンはラスターセイバーの刃でゼダークを斬りつけた。
「確かにこの世界は腐ってるかもしれない。けど、そんな世界でも私はソウタに会って、フウカやカズマやマドカにも会って……幸せの欠片を見つけられた」
落下していくゼダークに、チャージをさせまいとファルブラックが追撃する。
「そんな世界を壊すべきだなんて、私は思わない」
A-Zの言うような腐った世界を、クオンは嫌という程見てきた。その身で死んだ方がまだ救いがある程の地獄を味わってきた。
それでもソウタと出会ってから、世界は決してそれだけではないのだと知った。
故に告げた否定の言葉と共に、ファルブラックはゼダークに強烈な蹴りを加え、地面へと叩きつけた。
「それでも私は止まれない! 全ての悪が平伏す程の、絶対的な悪に私はならなければならないのだ!」
土煙の舞う中、ゼダークはハルバードを支えにゆっくりと立ち上がる。
その直後、ソウタたち二人の視界にあった土煙が一瞬にして消滅した。
「っ……!」
「時間停止!? このタイミングで……!」
そしてファルブラックに、凄まじい衝撃が走り装甲が欠ける。
エネルギーが減っていない筈の状況での時間停止。推測は間違っていたのかと危惧するソウタだったが、それにしてはゼダークの様子がおかしかった。
「加速、してる……」
「エネルギーの、暴発……!?」
機体は赤い光を纏い、挙動の一つ一つが三倍近くの速さまで加速している。
それは、時喰エンジンの暴走。エネルギーが充満した状態での時間停止の使用でエネルギーが溢れ暴発、収束された時の流れが機体全体へと逆流し、機体の進行時間を加速させているのだ。
もはや必殺技を乱れ撃つことも、時を止める事も出来ない。ここから先はこれまでの戦い方も通用しない、正面からの殴り合い。
互いの信念をかけた最後の激突が今、始まる。
「何が正義だ! そんなもので全てを救う事などできるものか! 世界を救うのは正義ではなく全てを支配する唯一絶対の悪の他にはない!」
「違う……!」
凄まじい速度の機動で迫るゼダークが、ハルバードを振り下ろす。あまりの速度に避け切れず、EXファルガンはその一撃を受け止めた。
A-Zは正義を否定し、悪による支配で全世界に平和を齎そうと云う。だがそれを、ソウタは自らの願いの元に否定する。
「お前は正義だ、A-Z!」
「戯言をッ!」
そしてEXファルガンはラスターセイバーを振り払うが、その速度を以てゼダークは斬撃を回避した。
クオンのような戦争で傷ついた子供たちを戦争から解放する為に、全ての悪の支配者となり世界に平和を齎す。
それを望むA-Zはソウタから見れば悪などではない。正義の味方そのものだったのだ。
「昔の私みたいな子供たちを救う為に戦ってきたあなたが、ただの悪な筈がない……!」
クオンもまた、そんな彼の言葉に頷く。傷ついた子供たちに手を差し伸べる事を一番の目的とする人間が、悪である筈がないのだから。
「だけど俺たちはその正義を否定する! 俺たちは、希望を諦めたくなんかないッ!!」
激しい高機動戦闘の中、ソウタは告げた。A-Zを正義と認めながら、その正義を否定する意志を。
これから先に生まれる希望を、決して諦めない為に。
「少年、名は」
戦いの中で意志をぶつけ合った、一人の少年。自分の言っていたような堕落した人間からは程遠いその姿に感化され、A-Zはその名を訊ねる。
「結城ソウタだ」
そしてソウタは誇りを持って答えた。A-Zの黒き正義を否定する、一人の小さな正義の戦士の名を。
「ならば結城ソウタ。水無瀬クオン。私の正義と貴様らの正義、どちらが正しいか……ここで決着をつけてくれよう!」
互いに認め合い、ここでゼダークはさらに加速する。
そしてEXファルガンは銃を両手で構え、当たらないビームを放ち続ける。決して闇雲にではない。自分の信じる、パートナーの力を信じて。
「捕まえた」
「水無瀬クオン……ッ!」
ビームライフルで誘導された動きを、クオンが捉えてファルブラックで抑えつけた。
「私たちの希望は閉ざさせない……!」
ゼダークがハルバードを振るい、ファルブラックへと叩きつける。
破片を撒き散らしながら、崩れ落ちていくファルブラック。
その背後には、バズーカを片手にブースターの光を灯し、急速に接近するEXファルガンの姿があった。
「結城ソウタァァァァァァッ!!」
ゼダークの全身に、五つの光が灯る。時喰エンジンが暴走した今、ゼダークもこれが最後の一撃だ。
「A-Zゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
EXファルガンのラスタービームのチャージが始まる。
互いの距離が詰まっていく。
エネルギーが収束され、臨界へと近付いていく。
「ラスタァァァァァァ!!」
「クインデッドォォォ!!」
そして……。
「「ビィィィィィィィィムッ!!!!」」
二つの光線が、同時に解き放たれた。
「うぐっ……!」
「その程度の力で、正義を貫く事など!」
クインデッドビームの威力に、EXファルガンが押されていく。
正義を貫くには力不足だと告げようとするA-Z。だがまだソウタは、諦めてはいなかった。
「まだだ、押し込めEXファルガン……!」
ソウタが全力でペダルを踏み締める。
200パーセントが上限のEXファルガン出力ゲージが振り切れ、300パーセントにまで至った。
最大以上の出力のラスタービームが放たれ、バッテリーが唸りを上げ始める。
次の瞬間、突然ゼダークの背中が爆発を起こし姿勢が崩れた。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
その勢いでラスタービームの光はクインデッドビームを押し破り、一気にゼダークを呑み込んでいく。
「いいだろう、背負うがいい。人の道の、その行く末を……」
エネルギーの奔流の中で、A-Zは告げた。
それは責任だった。
悪による支配を否定し、無数の小さな正義の共存を願う。もしかしたら修羅の道となるかもしれない選択をした責任を、ソウタとクオンはこれから一生背負っていくのだと。
その言葉を言い残すと光は消え、ゼダークは機能を完全に停止し、崩れ落ちて地面へと膝をついたのだった。
同時にEXファルガンも、バッテリーの爆発を起こし森の中へと倒れる。
「ソウタ! ソウタぁぁぁぁ!」
ファルブラックから脱出したクオンは、涙を流しながらEXファルガンの元へと駆け寄る。
もしも死んでいたらどうしようと、不安を胸に全速力で森の中を駆けて辿り着いたクオンの前で、EXファルガンのコクピットが開いた。
「大丈夫だよ、クオン」
そう言って笑いかけながら、ソウタはEXファルガンを降りてクオンの細い身体を抱き寄せる。
「よかった……。本当に……」
安堵で力が抜けて、クオンはソウタの胸板へと力なくもたれかかる。
これからは、安心してソウタたちと一緒に平穏な日々を迎える事ができる。その喜びを噛み締めながら、クオンは今できる限り精一杯甘えるつもりでいた。
「あれ、ゼダークが……」
だがそんな時、クオンは倒したゼダークに異変が起きている事に気付く。
「だんだんと、錆びていく……」
「暴走した時喰エンジンは時を加速させる……。その最期がきっと、あれなんだ……」
時喰エンジンの暴走は、まだ終わってはいなかった。
超魔神機ゼダーク。魔王となることを目指したその鋼の機体が、時の流れに侵食されて錆び、朽ち果てていく。
やがてそこには木々が巻き付き、緑に包まれながら、黒き正義の機神はその最期を迎えたのだった。
「帰ろう。みんなの所に」
ゼダークの最期を見届けたソウタとクオンは、二人で手を繋いで歩き出した。
帰りを待つ皆の元へと。
そして、これから待っている、命尽きるまで決して終わらない日常の中へと……。
同時刻、只野市。
「おい、動けるか!?」
「ファルソードはもうだめだ。隙を見て脱出する」
魔人機テレスティアとの激闘の果てに、ヒロイックロボ二機は満身創痍の状態となっていた。
ファルソードは大破、ファルガノンも中破。もうとても戦闘継続は不可能と言える状態だろう。
「あいつ、あの状態でなんで動けるんだ……!?」
だがそれ以上に、テレスティアは限界を超えていた。
両腕は千切れ、頭部は半分に抉れている。全身の装甲板は割れてフレームが露出し、これ以上の稼働は不可能にも見える。
「私は……負ける訳には……!」
しかしそれでも、フィーネは歩き続けていた。他の何でもない、自分の信じたモノの為に。
「そう、あの人が……」
「動きが止まった……?」
だがここで、テレスティアが足を止める。
何が起きたのか。これで勝ったのか。状況を飲み込めない八木とアリサの前で、テレスティアのコクピットが開き、女が両手を上げて降りてきた。
「もはや戦う意味はありません。これよりそちらに投降します」
「投降、だと……?」
「これでいいんですよね、A-Z……」
突然の投降に戸惑う二人をよそに、フィーネはどこか清々しい笑みを浮かべる。
ガーディアンと黒曜旅団の戦いは、この瞬間を以て完全に幕を閉じたのだった。
そこから先は、事が当初の予想以上にスムーズに進んだ。
もしもゼダークが敗れ首領A-Zが死んだ場合、速やかに全員投降するように指示されていたらしく、基地突入前に構成員たちが一斉に投降したのだ。
構成員の一人が言った。「彼は自分が悪だと自覚していた。絶対的な悪である自分が正義に敗れた暁には、黒曜旅団は必要ない。それが彼の意志だ」と。
結果として世界は、黒曜旅団による悪の抑圧と支配を拒んだ。一人の少年と一人の少女によって、悪の抑止力よりも、いくつもの小さな正義が選ばれたのだ。
それは人類にとって、より多くの血を流す事になる道なのかもしれない。
だがそれは、少年たちだけが背負うべきものではない。有史以来、悪を悪として否定し、定義の曖昧な正義に縋ってきた人類全てが背負うべきものなのだろう。
世界は再び回り出す。黒曜旅団と少年たちとの戦いを、昨日一昨日の事として記憶の奥底にしまい込みながら。
そして時は流れ……。
一年後。
「クオンお姉ちゃん、待てー!」
「待ったら戦いにならない……」
「本当に人間かよ!」
ここは只野市に設営された児童養護施設。その庭の遊び場で、クオンは小さな子供たちと一緒に駆け回っていた。
「あまり本気出しちゃダメだよ、クオン」
「わかってる」
六人がかりで子供たちがクオン一人を追いかけ、捕まれば罰ゲームという一見不利極まりないルール。
だが戦場で培った戦闘技術を活かし、一般人からはかけ離れた動きで大人気なく逃げ回るクオンに、ソウタは座っているベンチからそう声をかける。
「本気でやれよな!じゃないと罰ゲーム二倍だからな!」
「そう。なら手加減しない」
だがそれを聞いた少年は本気で逃げ回るよう釘を刺し、クオンはさらに本気を出して並々ならぬ身体捌きを披露し始めた。
「本当に分かってるのかな、あれ……」
その様子を見て、ソウタは苦笑いを浮かべながらそう漏らすのだった。
「くそっ!」
「そんな動きじゃ私は捉えられない」
クオンに触れようと手をかざす少年。だが、クオンはすかさず軽々と飛び退いて避けてみせた。
だが次の瞬間、背中にポンと何かが触れる感触が伝う。
「やった!ユイが捕まえた!」
「捕まっちゃった……」
後ろにいたのは、大人しそうなユイという少女。飛び退いた先に彼女がいた事で、クオンは見事に捕まってしまったのだ。
「お姉ちゃん、罰ゲームだよ!」
「お尻ふりふりの刑ね!みんな集まれー!」
ユイという少女は得意げに罰ゲームを宣告し、取り仕切り役の少女によって参加していた子供たちが集められる。
「えっと……こう……?」
そんな彼女らに、クオンは背中を向けて尻を突き出し、腰を振って見せる。
「ちゃんと歌わないとダメだぞ!」
「え、歌うの……?」
「当たり前じゃん!」
思っていたよりも恥ずかしい行為に頬を赤らめるクオンだったが、さらに突きつけられた要求に困惑を隠せずにいた。
「お、おしーりふーりふーり……!」
だが子供たちの期待と頑張りを裏切るわけにもいかない。クオンは顔を真っ赤に染めて羞恥に耐えながら、喉の奥から声を絞り出し歌いつつ尻を振り始めた。
「可愛いわね、彼女」
「み、三浦さん!?」
その様子を見ていたソウタの元に、エプロンを来た女性が訪ねる。
彼女は三浦。この施設を運営する施設長である。
罰ゲームを受けるクオンを見て少しドキドキしていた中で突然声をかけられたソウタは、つい驚き声を上げてしまった。
「あなたたちが来てくれて子供たちも楽しそうだし、本当に助かっているわ」
「俺は付き添いで来てるだけですよ。頑張ってるのはクオンです」
ソウタたちが来てから助かっていると語る三浦。だがここに来ても、ソウタはちょっとした手伝い以外大したことはしていない。
彼の言うように、本当に頑張っているのはクオンだ。彼女は子供たちの遊び相手になり、一緒に掃除などにも参加して、今では既に仲間として受け入れられているのだ。
「それー!」
「……痛い」
踊り終えたクオンは、今度は四つん這いになってあのユイという少女に尻を叩かれている。本当は痛くも痒くもないのだが、それでも痛がる素振りをしながら。
「過去の贖罪……。あの子も被害者でしかないのにね」
何故彼女がここまで献身的に子供たちに尽くすのか。三浦はそれを話で聞いて理解していた。
「クオンが自分なりに納得して、前に進む為に必要だって決めた事ですから。俺は応援するだけですよ」
過去に戦争で、またファルブラックに乗って、クオンはこれまで多くの命を奪ってきた。その償いをする為に、彼女はこうして子供たちと深く触れ合っているのだ。
「次はソウタ兄ちゃんも参加だからなー!」
「どうやらそういうわけにもいかないみたいね」
「ですね」
だが見守るだけのつもりだった事も、子供たちから見れば関係ない。少年たちに連れられて、ソウタもまた遊び場へと引っ張られていくのだった。
「クオン。今の、わざと捕まったよね」
すれ違いざまに、彼はクオンに尋ねる。全員から逃げ回る鬼ごっこの中で、実はわざと捕まったのではないかと。
「あの子、一番運動ができないから。他の子に捕まらないようにしながら、ユイが捕まえやすいように動いてた……」
「流石ファルブラックのパイロット」
あの中で、彼女は参加している子供たち全員の位置を把握し、捕まらないように誘導しながら、ユイという少女に捕まるように動いていた。
三次元戦闘を求められる飛行型機体のファルブラックに乗っていたクオンにとっては造作もない話である。
というのもその少女は運動が苦手で、普段から遊びに参加できないか、できたとしても負けて罰を受ける側だった。そこでクオンは彼女を立てて、そんな彼女にも楽しんでもらおうと考えていたのだ。
「ソウタお兄ちゃん早く!」
「わかった、今行くよ」
そんな事を話していると、ソウタは早く来てくれと子供たちに急かされる。
「そろそろ学校だから。行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
そしてこれから、クオンは学校に行く為抜ける事になる。
外国人や何らかの事情で教育を受けられなかった者などが通う夜間学校。そこにクオンもまた通い始めていたのだ。
「ありがとね、クオンちゃん」
「こちらこそ」
施設長の三浦と挨拶を交わすと、クオンは施設の門を抜けてバス停へと向かう。
「メール来てる……」
そこでふとスマートフォンを見てみると、フウカからメールが来ていた。開くとそこには本文と、カズマとフウカの二人が写った自撮り写真が添えられている。
本文の内容は、二人揃って受験していたガーディアン傘下の大学に合格したというもの。
彼らはかつてガーディアンでGキャリアーに乗った経験を活かして、災害時のヒロイックロボの運用法などの新しい災害支援の研究、開発をする為にこの大学を選んだのだ。
もしかしたら今後、世界中の災害時に彼らの研究成果が活躍する日が来るのかもしれない。
「フウカとカズマ、よかった……」
何はともあれ二人が元気だということを改めて確認したクオンは、一安心して笑みを浮かべた。
「私も行かないと……」
そしてクオンは、一人自分の学校へと向かう。失った時間を取り戻し、学べなかった知らない事を学ぶ為に。
道を行く彼女の顔には、かつて失った筈の笑顔が確かに取り戻されていた。
世界を救う為に黒曜旅団と戦った少年少女たちは皆、新たな道を歩み始めている。
こうして、彼らの戦いは終わりを迎えた。戦いを終わらせた力であるEXファルガンとファルブラックは地下深くに封印され、もう二度と表舞台に立つことはないだろう。
だが再び歩き出した今の彼らに、そんなものはもはや必要ない。
これは歴史の片隅に伝え記された、決して教科書に載る事のない、小さな英雄たちの戦いの物語である。
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