第二話 閃光の騎士

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関東支部、小会議室。 「で、話って何!?とっとと帰りたいんだけどー!」 貴重な日曜日を早く家に帰って満喫したいフウカは、荒れた様子で椅子に座る。 「俺は幾らでも大丈夫です!」 「あはは……」 一方でカズマは、憧れのガーディアン基地の中の小会議室という事で興奮気味に。 ソウタはそんな二人の様子を見て苦笑いしながら椅子に腰掛けた。 「それで話だが、率直に言おう。君たちに、これからも怪獣と戦って欲しいと思っている」 「戦う?俺たちが……」 御法川の言う話。それは素人でしかないソウタたちに、昨日と同じように怪獣と戦って欲しいという突拍子もない事だった。 「勿論危険な仕事になるからね。何の強制力もない頼み事だ」 「でもそういうのってプロがいるじゃん。なんでうちらなわけ?」 フウカの言う通り、対怪獣戦闘には彼らが出なくとも充分な実力を持つプロがいるのだ。 昨日は名古屋の件と立て続けのせいで対応が遅れたとはいえ、今更偶然乗っただけのソウタを引き続き乗せるほど人手不足というわけでもない。 だが御法川の考えている問題点はそことは別にあった。 「恥ずかしながら、そのプロの質も落ちてきていてね。初めからガーディアンにいるヒーローは優秀なんだけど、問題は軍人上がりだ」 「軍人なら強いんじゃないのか?」 元軍人が問題だと彼は言うが、その意味がわからないカズマは首を傾げる。 しかし問題なのは、戦闘力とは別のところにあった。 「兵器を使い人間と戦う訓練ばかりしてきた人間にヒロイックロボは使いこなせない。その事を理解しようともせず、軍幹部の天下りが増えた上層部の連中は元軍人の割合を増やそうとしている上に、戦争に使う事も考えている始末だ」 「なるほどねぇ……」 「勿論ちゃんとしてくれるなら元軍人でもいいんだけど、実際はガーディアンを民間人だからと見下し問題を起こす事も少なくない。そんな人たちばかりではないんだけどね」 元々は消防などと同じ扱いのガーディアンだが、今では軍人上がりたちが正式な戦闘員ではない彼らを排斥し事実上軍隊化する動きがあるのだという。 さらにはヒロイックロボを人間同士の戦争に投入する事の推進など、いくら良識派も少なからずいるとは言っても元軍人という集団が正義のヒーローであるべきガーディアンの在り方を歪めている事に変わりはない。 「で、それと俺たちに何の関係があるんだ?」 「今のガーディアンは、軍隊化し始めて正直とても純粋な正義の味方とは言えなくなりつつある。そんな中で、君たちは忘れられつつあったヒーローの真の在り方を示してくれたんだ」 その状況下で現れたのがソウタたちだった。 怪獣が迫る中咄嗟にロボットに乗り込み、仲間の知恵の力も借りて見事打ち倒し多くの命を救う。 組織などに囚われず、自分たちの意志でそれをやり遂げた彼らは御法川にとってはまさに待ち望んでいた正義のヒーローだったのだ。 「だから俺たちに、ガーディアンを変えろとでも言うんですか?」 「君たちは道を示してくれるだけでいい。自分たちの信じるままに、正しいと思うことをしてくれたらそれで充分だ。その後は僕たち大人の仕事さ」 だからといって大人同士の争いには巻き込むつもりなどない。 何者にも囚われず、正義の為に戦うヒーローへとガーディアンが変わっていくための道しるべとして、彼はソウタたちの力を借りようとしているのである。 「わかりました。少し考えさせてください」 「当然だよ。すぐに決めてしまうようなら止めるつもりだったからね。決まったらこの番号に連絡してくれ」 勿論すぐに決められる話ではない。御法川は電話番号が書かれた紙をソウタに手渡し、選択を託した。 「まったねーおじさーん」 「ああ。タクシーは手配しておこう」 そして御法川は、二人の背中を見送ると携帯電話を取り出そうとして気付く。 「君はいいのかい?」 帰ったのはソウタとフウカの二人だけ。カズマがまだ残っていた事に。 「基地見学させてもらっていいですか!?」 「構わないよ」 「っしゃあ!!」 目的が叶って歓喜し飛び上がるカズマ。当たって砕けろで訊ねてみた甲斐があったというものである。 「暇な職員に案内させよう。誰かいるかな」 「はーい。私暇でーす」 「よろしく頼むよ」 御法川は非戦闘時で人員過多のオペレーターの一人に案内役を任せカズマを送り出し、そして椅子に座るとコーヒーを飲んで一息ついた。 「よろしいのですか?」 そんな彼の元に現れたのは、スーツを着た秘書の女性。 「基地見学くらい問題ないさ」 「そうではなく、ヒロイックロボをあんな子供たちに使わせる事です」 彼女はやはり、ソウタたちにヒロイックロボを運用させる事に関しては不安なようである。 「軍人崩れの老害共に渡すより遥かにいいさ。それに彼らがついてくれれば、ガーディアンの革新は大きく前に進む事になる。期待しようじゃないか。ヒーローの活躍に」 だが御法川は不安以上に、期待に胸を膨らませていた。 彼らがどんな活躍を見せてくれるのか。そして、彼らが指し示す正義というものが一体如何なる物なのかという事に。
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