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第四話 燃える中東
深夜にも拘わらず、一人で高台から街を見下ろす少女。
ソウタは一瞬その神秘的でもある光景に呆然としたものの、流石にこの時間は危険だと恐る恐る声をかけようとする。
「あなたも、居場所がわからないの……?」
「っ……!?」
しかし見られていないのに向こうから話しかけられ、ソウタは思わず驚き一歩引き下がった。
「それとも……他のことで迷ってるの?」
そしてこちらへと振り向く少女。そのルビーのような赤い瞳は、まるで何もかもを見通しているかのようだった。
「君は?こんな時間にここにいると危ないよ」
ソウタは彼女が何者なのか、尋ねると同時に家に帰るように促そうとする。
「帰る場所はない……。迷子、なのかな……」
しかしそれはできなかった。彼女には、帰るべき家がなかったのだ。
「家があって、迎えてくれる人がいて……それって、とても幸せな事なの。そして私は、幸せに選ばれなかった」
何やら重々しい彼女の言い草から察するに、ただの家出少女というわけではなさそうである。それよりも、遥かに重い背景がある様子だった。
「私、6歳の頃から中東にいたの。何のために生きてるかも分からないまま、言われるがままに戦いながら……」
「そんな事って……」
「けどやっと帰ってこれた。私の居場所は残ってなかったけど、それでも……」
彼女は日本人ではあるものの、訳あって幼い頃から中東の紛争の只中で生きてきた。時には人を殺し、殺されそうにもなったのだろう。
そんな境遇で生きてきた彼女だったが、巡り巡ってようやく帰国する事ができた。その頃には、家も何もなくなっていたのだが。
「帰ってきてよかった……」
しかしそれでも少女は幸せを感じていた。消耗品のように使い潰されてきて、いつ死んでしまうかもわからなかった彼女にとって、再び故郷であるこの国に戻る事が出来たのはまさに奇跡としか言いようがなかったのだ。
「ごめんなさい、こんな話を聞かせてしまって……」
「俺たちにとっては当たり前の事が、とても幸せな事……か……」
自分たちには想像もつかないような壮絶な世界。その真っ只中で、目の前にいる少女が生きてきたという事を知ったソウタの心が揺らぐ。
(正義って、何なんだろう……)
御法川の言うように紛争には関わらない。ヒーローとして、本当にそれだけでいいのか。そもそもヒーローとは何なのかという迷いが彼の心に芽生え始めていた。
「ありがとう、聞かせてくれて」
その答えを見つけるには、長い時間がかかるだろう。だが、自分がヒーローとして戦う事の意味を考えるという点では少女との出会いは決して無意味ではなかっただろう。
「それじゃまた……」
話を終えると、そう言って立ち去ろうとする少女。そんな彼女を咄嗟にソウタは呼び止めて尋ねた。
「俺は結城ソウタ。君は?」
「水無瀬クオン」
水無瀬クオン。それが、その薄幸の少女の名前。
「また会ったら、良かったら話をしよう」
「うん。またね」
そして再び出会ったらその時もまた、今日のように話そうという約束を交わしてソウタとクオンはこの場で別れるのだった。
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