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第五話 紅の砲鬼
レバスタン共和国の一件からさらに一ヶ月。いつも通りガーディアン支部へとやってきたソウタたちだが、今日は何やらいつもよりも騒々しい様子だった。
「やあ。君たちか」
戸惑う彼らの前に現れた御法川。そんな彼は何故か、どこか楽しげだった。
「御法川さん、一体どうしたんですか?」
「君たちも見に来るといい。面白いものを見せてあげよう」
「面白いもの?」
そして三人は、御法川に連れられて基地の中を進んでいくのだった。
それから数分ほど。辿り着いた先は、ヒロイックロボの格納庫だった。
「うわ、なんだよこれ!まさか……!」
扉を開けて中に入った先。そこに佇んでいたのは、見たことのない赤色のヒロイックロボだった。
「一か月前……ちょうど君たちが中東まで行っていた間に量産体制が整った新型機、ファルガノンだ。今日ロールアウトされたばかりで大忙しさ」
短い二本角の頭部に、力強さを感じさせる太い手足。さらに目を引くのは、背中に二門装備された大口径のキャノン砲。ファルガンやファルソードと比べて重量感に溢れたこの機体が新たなるヒロイックロボ、ファルガノンである。
「すっげぇ!見ろよソウタ、まだ未発表の新型ヒロイックロボだぜ!」
「強そうだなぁ……」
公式発表よりも先に新型ヒロイックロボを見られた興奮で今にも飛び上がりそうなカズマ。一方ソウタは、茫然と見上げながら思わずそんな感想を漏らしていた。
「なんていうか……赤鬼?」
「その通りだ九条くん。あの機体は赤鬼をモチーフにデザインされている。悪くないだろう?」
フウカの予想した通り、この機体のモチーフはおとぎ話にも出てくる赤鬼だ。確かに強そうに見えて、御法川も気に入っているようだがやはり一つ気になる点があるだろう。
「正義の味方っぽさとしてはどうかと思うけどね」
そう、鬼といえば基本的には物語における悪役。ヒーローのデザインとしては若干ひっかかるものがあった。
「ファルブラックに触発された開発陣がダークヒーロー路線で押し切った結果だそうだ」
「自由かよ」
だが、やや悪役感が否めないのもどうやら開発陣の狙い通りらしい。ファルブラックに対抗したダークヒーロー的デザインを目指したらしいが、張り合う所がおかしいとも言えなくはないだろう。
「背中のキャノン……もしかして支援砲撃型か?」
「惜しいね」
その武装配置を見たカズマは、このファルガノンが支援砲撃型の機体だと予想するが、それは間違いだという。
「確かに元々は支援砲撃型として開発がスタートしたが、そこで我々は致命的な欠点に気付いた」
「致命的な欠点?」
開発開始時点の構想では、カズマの言う通り支援砲撃型として設計されていた。だかそのコンセプトには、ある重大な欠陥があったのだ。
「ヒロイックロボの戦闘は基本的に1対1。つまり単なる支援砲撃型では出る幕がないという事だ」
「いやそれ最初に気付こうよ」
それは、ヒロイックロボの戦闘にそもそも支援砲撃型というカテゴリが必要ない事だったのだ。なんともいえないミスに、フウカはそうツッコミを入れる。
「そこで設計を見直し、格闘能力も付加して遠近両用の高性能機として完成したのがこのファルガノンだ。性能面では、運動性以外の全てにおいてファルガンを上回る機体に仕上がっている」
ならば殴れるようにして近接戦にも対応させようと再設計した結果生まれたのが、このファルガノンである。その性能は凄まじく、現行機の中では間違いなく最強の機体だと言えるだろう。
「そーんな虫のいい話ある?」
「お、おい!」
しかしそんな都合のいい話に怪しさを感じ取ったフウカはそう尋ねる。カズマは失礼だと止めようとするが、御法川はその質問に答えてみせた。
「まったく、九条くん。君は本当に鋭い子だ。二度も見ただけで怪獣の弱点を読み解き勝利に貢献しただけのことはある」
どうやら、本当にその都合が良すぎるまでの話を覆すような欠点があるらしい。
「最大の欠点はコストだ。当初の想定を遥かに上回る性能と引き換えに費用も増大して、製造費用だけでなく一度の出撃にかかる費用もファルガンの1.7倍かかってしまう。正直、配備できたとしても全体の5%が限度だ」
確かに性能は非常に高いが、とてつもなく高価。それがファルガノンのほぼ唯一にして最大の弱点だった。
「世知辛いですね」
「現実はそんなものさ」
ヒーローという夢のある世界で、最大の弱点として出てくるものが金という世知辛い現実。ロボットを使っているからには避けては通れない問題ではあるが、目を背けたくなる話ではある。
そんな話をしていると、ファルガノンのコクピットからパイロットが降りてソウタたちの元を訪れ、声をかけてきた。
「君が噂の高校生ヒーローか」
「俺を知ってるんですか?あなたは……」
「まだ公表はされていないがガーディアン内では噂になっているぞ。俺は八木コウイチロウ。このファルガノンのパイロットだ」
八木コウイチロウ。髭をたくわえた40代程の男で、身体は筋肉質。如何にも歴戦のパイロットといった雰囲気を醸し出していた。
「ファルガンのパイロットの結城ソウタです。まだアルバイトという形ですが、よろしくお願いします」
「ああ。よろしく頼む」
互いに自己紹介を済ませたソウタと八木。そんな中、カズマは格納庫を見渡しあるものを見つけた。
「おい、何だあれ」
それはまるでトレーラーのようにも見えるがサイズは遥かに巨大で、ヒロイックロボ一機を乗せてもまだスペースがある程の巨大な車両だった。
「気付いたか。あれはヒロイックロボ支援用トレーラー、Gキャリアーだ」
「Gキャリアー……?」
「操縦に必要な人数は二人。連結するユニットによってヒロイックロボ輸送や戦闘支援、避難民の救助・輸送や仮設病院など様々な機能を付与できる新型スーパーマシンだ」
その車両の名はGキャリアー。目的に応じて様々なユニットを連結する事ができ、それによって戦闘支援から災害派遣までありとあらゆる役割を担える、まさにスーパーマシンと呼ぶに相応しい代物である。
「すっげぇ、なんでもありじゃねーか!」
「その通り。そしてこの第一号に乗るのは、君たち二人だ」
しかもなんとこの一号機に乗るのは、カズマとフウカの二人だという。それは、これまで色々な形でソウタの助けになってきた二人がよりスムーズにサポートを行えるようにという計らいだった。
「うっそマジで!?」
「っしゃあ!ガーディアンの最新型一番乗りかよ!」
予想外の展開に驚くフウカと、ガーディアンの新型機の初運用をできるという夢のような出来事に歓喜するカズマ。
だがこうして新しい機体を託すという事は……。
「その為にもまずは運用訓練が必要だね」
「待って、訓練ってことは……」
「これから君たちも忙しくなるぞ?」
当然、それには訓練が必要となる。その事を聞いてもカズマのテンションは最高潮のままだが、フウカは面倒だと一人項垂れるのだった。
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