今、僕は

4/5
前へ
/14ページ
次へ
** 今の僕は、香奈との思い出が、大切なものとは思えなくなっていた。 「ヘルメスさん。僕は記憶のすべてをもらう資格がないんです。僕と香奈はもうダメなんです…」 そうあの欲深なきこりのように、「僕がなくしたのはその金の記憶だ」と、嘘をついてでもしたたかに金を欲しなければ、僕は香奈をしあわせになんかできやしない。 「僕は金の記憶の価値がわからないダメなやつなんですよ、ヘルメスさん……」 するとヘルメスはやっぱりニッコリ笑って言った。 「我が名はヘルメス。わたしは夢と眠りの使いでもあります。わたしはまず、あなたに休息を与えます。あなたには休息が必要です」 その言葉はまるで催眠術のように、僕は眠りに落ちていった。 「……あの、ヘルメスさん。香奈との出会いの記憶を、あれを金だと言ってくれてありがとう…」 ヘルメスは最後にこう言った。 「悩める正直者に、金と銀、それからなくした今日の記憶のすべてを与えます」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加