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「あなたが落としたのは、こちらの金の記憶ですか?」
戻ってきたヘルメスがさしだした右手には、揺らめく光の空間の、小窓のような穴のようなものが、フワフワと浮遊していた。
「へっ? この中を覗くってことですか?」
無表情のヘルメスはコクリと頷いた。
「金の記憶って言われても、僕にはなんのことなのかさっぱりで…」
ヘルメスの手の上の、そのボーリングの球くらいの大きさの空間に、頭を首まで突っ込むとその記憶が見られるのだという。
「じゃあ、失礼します…」
おずおずと頭を突っ込むと、そこに現れたのは新宿のいつもの喫茶店だった。
「あ、香奈がいる」
それからその喫茶店に一緒にいるはずの僕を探してみたけれど、見あたらなかった。
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