金の記憶

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「はい。ぜひ手伝わせてください」 「やった。よかった。ぜひぜひお願いします。じゃあ大学の3号館の大きな教室。そう、あのホールみたいな教室の、調光室にだいたい僕いるからさ」 僕は緊張して手が震えていたんだと思う。  ガチャン 「やべっ、ごめん!」  カップを口に持って行ったはずなのに、手がおぼつかなく滑ってしまって、コーヒーを机にぶちまけていた。 「大丈夫ですかっ」  香奈はすぐに自分の厚手のハンカチで、机のコーヒーを拭ってくれたんだ。 「えっ、それ」 「ああ、いいんです。ハンカチって、汚れを拭くために持ってるんだから」  全然大丈夫っ、みたいな表情でニコッと笑ってくれた香奈の顔が、僕のすぐ目の前にあった。 __僕はこの時、香奈を好きになった。  ああ、これは僕の記憶だ。 香奈が僕を見ている。 けれども、当たり前のことだが、僕には僕は見えない。  鏡に映った僕なら、僕も見ることができるだろうけどね。
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