金の記憶

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「ちょっと、待ってください!!」  またしても僕は、ヘルメスの話の腰を折ってしまった。 「ダメなんです。僕はその、香奈との思い出を与えてもらうわけにはいかない…」  ヘルメスは黙って聞いていた。 「たぶんそうおっしゃってくださるんじゃないかと思いましたよ。イソップ寓話の『金の斧、銀の斧』では正直者は金と銀と普通の鉄と、3本すべての斧をいただけるんですよね?」  このあとこの物語は、3本の斧を手に入れたきこりを羨ましく思った欲深なきこりが「自分がなくしたのは金の斧だ」と嘘をつき、最後はヘルメスに懲らしめられて終わるのだ。 「だけど僕はいただくわけにはいきません。なぜなら僕は、金の記憶の価値がわからない男なんです。イソップ寓話では、素晴らしい金と銀の斧を自分のものだと主張することもできたのに、正直者は正直に落としたのは普通の鉄だと言いますよね。でも僕は正直者ではありません…」 僕と香奈とのあいだでは、別れ話が出ていた。 「僕は金の記憶を欲しているだろうか……」
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