午前3時の洋菓子店

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午前3時の洋菓子店

【アルバイト募集のお知らせ。】 当店で一緒に働いて頂ける、仲間を募集しています。 勤務は土日祝日を除き、週3~5日程度。 9:00~18:00迄の間で、一日7時間以内。 時給:930円 ※毎月第三水曜日のみ、深夜勤務あり。 第三水曜日というのはたぶん、この洋菓子店『天使の翼』の爆発的ヒット商品であるクッキー、『God Bless You!』の生産に合わせての事なのだろう。 美味しいだけでなくその名の通り神様の力で良い運気を呼び寄せると、ネットの口コミから人気に火が付いたのだとか。 長年の初恋が実りましたとか、ずっと憧れていた会社への就職が決まりましたとか...更には宝くじが当たりましたなんていう書き込みまである。 需要が供給を完全に上回っている状態にも関わらず、製造行程に特別なモノがあるらしく、販売は月に一度...第三木曜日のみ。 仕上がりが良くないからと、その日に店頭に並ばない事もあるため、もはや商品は幻と化している。 正直その話自体は眉唾物だと思うけれど、実際一度ブレイク前に食べてみたところ、大層美味しかったので、それだけでも充分価値があると言えよう。 貼られているバイト募集のチラシの間からちらりと店内を覗くとそこからは、小柄な女性が一人で商品の品出しをしているのが見えた。 緩く巻かれた、茶色の髪。 真っ白な肌は、ほんのり頬だけがピンク色に上気している。 大きな瞳はキラキラと輝き、私よりも年上だと思うのに、整った顔の造作の割にどちらかというとちょっぴり可愛らしい印象だ。 その時だった。 彼女は視線を感じたのか、ふと外に目をやった。 その為お店の外にいた私と、ガラス越しに視線が絡み合った。 わわ、目があっちゃった! ...どうしよう。 戸惑う私に向かい、彼女はふわりと笑った。 天使のようなその微笑みに魅了され、まるで魔法に掛けられたみたいに動けなくなる私。 その間に店員さんはドアを開け、ツカツカと歩いてきて...気付くと私のすぐ側に立っていた。 彼女から漂うのは、香水などの人工的なモノではなく、優しくて甘い、お菓子の香り。 「違っていたら、ごめんなさいね。  ...アルバイト募集のお知らせに、興味をお持ちで?」 その言葉で私は、ようやく我にかえった。 「えっと...、はい。  前からこちらのお店のお菓子が好きで、気になって。  まだ空きがあるようであれば、働かせて頂きたいのですが。」 普段は人見知りなのに、なぜかこの人には緊張する事なく、すらすらと言葉が出た。 すると彼女は再びにっこりと微笑み、言った。 「そうなんですね、嬉しいです。  ...採用!」 驚き、弾かれたようにこの小柄な人を見下ろした。 「えっ!?  採用って、あの...店長さんは...。」 「このお店は、私が一人で切り盛りしているの。  でもありがたい事に、お客様が絶えなくて、人手を増やさないとやっていけなくなってしまって。」 困り顔でそういうと、その人はまた穏やかな笑みを浮かべた。 「...随分とお若いみたいなのに、スゴいですね。」 素直な感想を述べてから、少し失礼だったかもしれないと慌てた。 でも彼女は気にするでもなく、ちょっと考えるみたいな素振りを見せ、言った。 「ありがとうございます。  でもこう見えて私、結構な年齢なのよ?  今年で確か...85歳だったかな。」 これは、笑うところなんだろうか? 戸惑う私を放置して、彼女は話を進めていく。 「いつから、働けます?  最近めちゃくちゃ忙しいから、私としては、明日からお願いしたいのですが...。」 すがるような瞳を私に向け、彼女は訴えた。 仕事を辞め、この一月ほどの間暇を持て余していた私は、迷う事なく答えた。 「はい。  では明日からよろしくお願いします!」
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