不思議な世界と不思議な出来事。

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

不思議な世界と不思議な出来事。

星屑の街 創作信念 創ることは楽しい。嬉しい。辛い。悔しい。 それでも私たちは創ることが好きだから ひとつの星として輝き続けたいんだ。 星屑の街の住宅街。星屑の街の中では静かな部類になるのだが、人が多くとても賑やかだ。空まで届きそうな「書物の塔」、アステリズムに通じる「天の川橋」、おいしいお菓子で人気殺到「洋菓子店プレルーナ」と、話題を呼ぶ場所が集まっている。洋菓子店プレルーナの扉のベルの音とともに1人と1匹が姿を現す。お菓子の入った袋を抱えている。 「おいしそうな香り!いそごっ!いそごっ!マニ、おうちかえろっ!」 「もう~ぷらりお~急いで転んだら大変だからゆっくり歩こうね。」 マニと呼ばれる少女は、ふわふわとしたクリーム色の髪。着ているセーターも髪の色と似たクリーム色。ぷらりおと呼ばれる茶色い姿をしたアライグマの妖精は、星の飾りがついた青い帽子、リボンのついた上着を羽織っており、空を泳ぐようにマニの周りを動いている。優しいマニの声と無邪気なぷらりおの声は、にぎやかな街に優しく響く。ぷらりおがひょいっとクッキーを空に放り投げ、ぱくっと口へ運ぶ。よく言えば、器用。悪く言えば、往生際が悪い。それを見たマニが黙っているわけもなく大きな声を出す。 「ぷらりおー!! 喉にクッキーがつまったら大変でしょ、やめなさい~!」 「えへへ、クッキーがおいしいからぺろりとしちゃったー!」 「ぺろりじゃありませーん!」 元々、優しい性格だからか、可愛らしくも聞こえる怒鳴り声が響く。洋菓子店プレルーナの列に並ぶ人々が微笑みながら見守っている。クッキーなどが詰まった甘い香りのする袋を抱え、家に向かってマニとぷらりおは、走っていく。洋菓子店プレルーナの近くにある一軒家。それがマニとぷらりおが暮らす家だ。家に着くと、羊たちがふわふわと浮かんでいて、マニたちを迎える。 「おかえり~!マニ!ぷらりお!おいしそうな香りがするね。お菓子を買ったのかな?」 「そうだよ~!はい、あげるー!」 羊たちにお菓子をあげると、おいしいねえと幸せそうに食べ始めた。羊たちもぷらりおと同じ妖精だが、あまり外に出るのを好まないため、マニやぷらりおのお土産話を楽しんでいる。 「も~!お母さん、ぷらりおったら、クッキーをひょい!って空に投げて食べたんだよ?」 クッキーを片手にマニは言う。 「あらあら、ぷらりちゃんはわんぱくねえ。遊び心もたまには大事だと思うけどなあ。」 ココアを飲みながらマニのお母さんは微笑む。マニと同じクリーム色の髪を一つのお団子結びにしている。マニのお父さんは、舞台監督をしており、忙しい日々を送っている。そのため会えるのは、年に1度あるかないかだ。ぷらりおと羊たちがはしゃいでいる声で隠すかのように、マニとお母さんの会話は続く。 「お父さん、たまには顔を出してくれればいいのにね。」 「そうねえ。お父さん、作品を通して自分を表現する!マニちゃんにもこの思い、届くはず!なんて言っていたけれど・・難しい話や物語はお母さんも分からないわ。表現した自分じゃなくて本当の自分を見せる意味でも家に帰ってきてくれればいいのにね。」 「うん・・お父さんは創作スイッチが入ると、いっぱい物語を書き始めるけれど、それ以外のことって不器用だよね・・。」 その日の夜。いつものように、マニとぷらりおは、ぐっすりと眠っていた。いつもならば、ぐっすり眠ったら日が昇り、朝が来るはず。時計の針の音が静かに響く夜。ぷらりおは、目を開ける。そして、何かに惹かれるように歩いていく。 「ふしぎな、力・・感じる・・。」 ぷらりおの温もりがなくなり布団が少し冷たくなった。マニがそのことに気付くまでに時間はかからなかった。 「うーん・・ぷらりお?どうしたの・・?」 マニは、目をこすりながら、着替え、ぷらりおに続く。ぷらりおが立っていたのは、とある部屋の扉の前。この扉の先には、不思議な世界「夢世界」に続く魔法陣がある。夢世界は、人間の感情、想いで構成される不思議な世界。想いによって、姿かたちが違う不思議な世界。いくつあるのか明確な記録はない。マニの家が妖精を保護する不思議な家になった理由は、マニが生まれるずっと前に、この部屋に夢世界へ続く魔法陣が現れたからだ。マニが扉を開け、光り輝く魔法陣の前に立つ。 ぷらりおが魔法陣の前に立ち、しましまのしっぽをとんとんと揺らす。 「ねえ、マニ!新しい夢世界が見つかったよ!」 「・・・うん! 早く街を元に戻したいな。」 真剣な表情で、マニもぷらりおの隣に立つ。 「スランプ、挫折。表現者の暗い気持ち、悩み。そんな想いに耐えられなくなったかのように、星屑の街にある星屑の欠片は、散り散りになってしまった。結界も消えて・・何事もないように見えるけれど、やっぱり前よりも、悩んでいる人が増えた気がする。街を早く元に戻したいな。」 そして、手には紫色に輝く、星型の宝石のようなものが光っている。「星屑の欠片」だ。 「ぷらりおの持つ、不思議な魔力で、”紫色”の星屑の欠片を見つけたけれど、1個だけじゃ心の悩みは、浄化できなさそうだね・・。」 紫色の光が、寂しそうに光る。 「星屑の欠片の絵本だと、星屑の欠片って虹の色の数とおんなじだっけ?早く欠片のお友達を見つけないとね!マニ、準備はできた?」 「もちろん!ぷらりおも大丈夫?」 「ぷらりはだいじょうぶだよ!」 「行こう!ぷらりお!」 「OK!マニ!」 「せーのっ!!!」 マニとぷらりおは、魔法陣に飛び込む。魔法陣は、穏やかな光で1人と1匹を包み、夢世界へいざなう。意識が消えるような不思議な感覚。眠っているような優しい感覚。 目を開けると、不思議な空間が目に映っている。あたりには、くまのぬいぐるみや、うさぎのぬいぐるみが散らかっている。水色のタンスやクローゼットといった家具が置いてある。マニと同じくらいの年の子、あるいはそれよりも幼い子供が使うような部屋だろうか。床には、ふかふかのカーペットが敷かれており、生活感があるようにも思える。 「なんだか誰かが住んでいるような夢世界だね。」 マニがあちこちを眺めていると、くまのぬいぐるみたちが動き出した! 夢世界は、表現者の心・想いから作られる世界。想いが何かに憑依し、襲ってくることがある。もし、痛みを受けてしまった場合、体の怪我にはならないが、心の負担が大きいため、意識を失ってしまう。マニは、ぷらりおと紫色の星屑の欠片を夢世界で見つけた後、想いを受け過ぎて意識を失ってしまったことがある。ぷらりおの不思議な魔法の力で部屋に戻れたのだが、その日はずっと眠ってしまった。それ以来、マニもぷらりおも夢世界の探索は、用心している。マニとぷらりおは、息をあわせて魔法の準備をする。 「コスミックマジック!!」 大きな声で言うと、星の光が瞬き、ぬいぐるみたちを攻撃する。ぬいぐるみたちは、くたりと倒れる。動きは止まった。 「うまくいったね!マニ!」 「うん!・・広い部屋だね。あ、奥に扉がある。行ってみよう!」 休む暇もなく、マニとぷらりおは、奥へ奥へと歩いていく。扉が見つかれば、開けて部屋の隅々を眺める。ぬいぐるみや絵本ばかり並んだ本棚、ふかふかのベッド。床に本が落ちていたり、ぬいぐるみが倒れていたり、誰もいないようには思えなかった。想いが憑依したぬいぐるみが読んでいるのだろうか?その時だった。 「ドー・・・レー・・・ミー・・・」 ピアノの鍵盤の音が階段の奥から聞こえた。 「ゆ、夢世界の七不思議!!」 「夢世界は、七つ以上に不思議なことはあるでしょう?・・行ってみよう。」 「マニ、怖くないの?」 「夢世界は、こういうこと、いっぱいあるでしょう?ぷらりおは怖いの?」 「こ、こわくないもん! い、いこう!」 ぷらりおは、マニにつかまりぶるぶる震えている。マニはゆっくりと階段を上る。そこには、ピアノ。そして。 「・・あ、あの・・あなたは・・・?」 藍色に光り輝く星型の欠片を持った少年が静かに立っている。ねずみ色の髪、眠そうな赤色の瞳。耳には青く星のマークがついたヘッドホン。洋服はダボダボな、髪の色と同じようなねずみ色の服を着ている。例えるならば、アルビノのカラスのような少年だ。少年の肩には、少年と似た色味の白いカラスが飛んでいる。 「だれ・・だ・・?」 少年は言葉を発したが、儚く消えるような声だった。 「ひぃ!しゃ、しゃべったああ!!おばけええ!!!」 「久々に、声を、出した気がする。」 ぷらりおのびっくりした声を聞いて少年は目を覚ますかのように笑う。その様子を見て、マニは恐る恐る尋ねる。 「あの、あなたも夢世界で想いを浄化しているの?」 「想いを浄化?いったい何のことだ?ボクはこの欠片から聴こえる音をずっと聴いていた。」 藍色に光る星屑の欠片は、きれいな色を放っているが、どこか悲しげにも見える。ぷらりおは首をかしげる。 「欠片から音ってなんだろー?んー・・ぷらりには聞こえないよ。」 「私も、分からない。きっとあの子にしか聞こえない音。」 マニも紫色の星屑の欠片に耳を傾けてみるが、音は聞こえない。少年は、欠片と話しているかのように、語り掛ける。 「そうか、悲しい音を取り込んで辛かったんだな。」 そして目線をマニたちに向ける。 「・・こいつは、悲しい想いをいっぱい聞いてきたらしい。手に取るだけでわかる。」 「悲しい想いが街にあふれているように感じたのは・・」 「悲しい想いを浄化する力のある欠片が、ここに迷い込んでしまっていたから・・」 藍色の星屑の欠片は、悲しい想いを浄化する役割があった星屑の欠片らしい。少年はまた声を出す。 「ここは・・どこだ・・? ずっとピアノの前にいた気がする。」 「ここはね、夢世界だよ。想いや感情から構成される不思議な世界。私たちは、想いを浄化したり、夢世界に飛んで行ってしまった星屑の欠片を集めるために来ているの。」 「ねえねえ、そういうえば、キミ!お父さんとお母さんは?」 ぷらりおの問いかけた言葉に対してマニは、はっとなった。そういえば。どうしてこの少年は夢世界にいるのだろう?白いカラスが妖精で、その力で夢世界に来たのだろうか?気になる事があふれてくる。けれど、考えを巡らせる前に、マニは少年の目から涙があふれていることに気付いた。 「わからない・・。いないの、かもしれない。でもこの欠片から聞こえる音は、ただ、悲しい音だった。こいつもいてくれたが、さみしくて、つらかった。」 少年は藍色の光に包まれながら、涙を流していた。悲しい音しか聞こえない空間にいて、どれだけ悲しい思いをしたのだろう。そのことを考えると、マニも泣きそうになったが、ぐっとこらえて言う。 「泣かないで・・・!! 3人で帰ろう?」 「さ、さんにん!?ってマニ!この子連れて帰るの!?」 ぷらりおは、思いもよらぬ提案に大きな声を上げる。が、マニはそれにお構いなく優しく声をかける。そして少年にハンカチを貸してあげる。 「泣いてたら助けてあげなくちゃ。私はマニ、この子はアライグマの妖精、ぷらりお。あなたの名前を教えてもらえるかな?」 ハンカチで涙をふき、落ち着きを取り戻した少年は礼を述べ、続けて言う。 「名前・・・そうだ。言っていなかったな。ボクに懐いている鳥は見ての通り、白いカラスだ。カラス座からコルヴスと名乗る事にしよう。」 「名乗る事に?んー・・まあいいや!夢世界って長い時間いると体にも心にも負担がかかるんだよ。帰るならおうちに帰ろう、マニ、コルヴス!」 ぷらりおは、マニの提案に最初はびっくりはしたものの、マニの言ったことを否定するということはしないので、コルヴスを受け入れた。そして、マニとコルヴスは、2つの星屑の欠片を手に広げる。 「紫色の欠片、藍色の欠片・・これで2色だね。」 「なんだか暗い色の欠片だな。これを集めれば星屑の街が元に戻る、というわけか。」 「はいはい、立ち話はおうちに戻ってからしようね? 今からみんなでマニの家に帰るよ! せーの!! ぷらりまじっく!!」 ぷらりおがくるくる回り、2人の周りを光で包み込むと、マニの家にあるような魔法陣が生まれる。そして、目をつむる。光があたたかく2人を包み、徐々に意識がなくなる。この時、コルヴスは星屑の欠片の光が眩しいと感じたが、マニは目をつむっていて、気付いていなかった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!