雀夜

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「何を勘違いしてるか知らねえが……俺は別にチェンジするなんて言ってねえだろ」 「えっ、でも……」 「ま、誠意も見せてもらったし。何より別のモンをお前から貰ったからな。今回はそれで良しとするわ」 「別の物……?」  首を傾げる俺に向かって、雀夜が笑いながら、だけど冷酷に言い放つ。 「お前の、売り専としてのプライドだ」 「っ……!」  体が震えるのを感じた。  家庭に恵まれなかった子ども時代。クラスメイトの殆どと関係を持って過ごしてきた学生時代。男を相手に体を売る仕事に就き、活躍し続けてきたこの十カ月。  セックスに関しては俺の右に出る者はいないとまで思っていた、俺の男としてのプライド。何もなかった俺が唯一持ち続けていたプライド。俺はもう、それすらも雀夜に奪われてしまったのか。  ……それならばそれでもいい。大切なプライドを交換条件に、雀夜に抱いてもらえるなら。今はそれで構わない。 「じゃ……じゃあ、プレイ続行ってことでいいの……?」 「ああ──だけど、お前には多少のペナルティが必要だな」  その言葉にゾクリと体が粟立った。一体何を「してくれる」んだろう。 「手を後ろに回せ」 「は、はい」  さっき俺の手を縛っていた白いネクタイで再び、今度は後ろ手に縛られる。そのまま俺をベッドに寝かせ、両足を大きく広げさせる雀夜。こんなSMチックな格好で犯されるんだろうか。考えただけで下半身が破裂しそうだ。  早く雀夜のそれを挿れてもらいたくて、俺は唇を舌で舐めながら彼を誘った。が、雀夜は服を脱ごうともしないで、ベッドの端に座って煙草を咥えている。 「な、何してんの?」 「ちっと休憩だ」  えっ。俺は、このまま? これ以上ないくらいに恥ずかしい格好をしたままで、雀夜が煙草を吸い終わるのを待っていろと? 「だって……もう、時間ないよ」 「あと何分だ?」 「もう二十分もない」 「ふうん……」  素っ気ない返事をして、雀夜は口から紫煙を吐いた。  下手なことは言わず、彼を待つしかない。また怒られたら嫌だし、それこそ自分のことしか考えていない男と思われるのも嫌だ。 「………」  時計の針だけが無情に進んでゆく。一分、また一分と経過する度に、俺は段々と焦ってきていた。時間がなくなることへの焦りもあるが、それ以上に、ずいぶんと放置されていたはずの俺のそれが……全く萎える気配がないのだ。それどころか、さっきよりもより一層熱くなり、猛っている。  欲しくてたまらないと、身体中が無言の悲鳴をあげている。自分で気休め程度の愛撫をしようにも、両手は縛られて少しも動かない。どうすることもできずに、ただただ体だけが雀夜を求めて熱くなってゆく──。 「さ、雀夜……。いつまでこうしてなきゃなんないの? これが、雀夜の言ったペナルティなんだろ?」 「お前次第だ。お前の態度によっては、このまま六十分終わる可能性もある」 「やっ──」  俺は首を横に振って、それを拒絶した。 「無理だってそんなの……! 頼むからもう、抱いてってば……」 「まだまだ反省してねえみてえだな?」 「してる……反省してるから、お願いっ……」 「それがお前の精一杯か」  なぜか溢れ出した涙が頬を伝ってゆく。俺はベッドに寝たままで雀夜を見つめ、心の底から懇願した。 「お願い、雀夜……。俺のこと、思いっ切り犯して……。何でもするから、お願い……」  雀夜の口元が、いよいよ嬉しそうに弛んだ。 「へぇ。何でもするとまで言うか」 「う、うんっ。何でもするっ……」  雀夜。なんて男だ。出会ってからまだ一時間程度しか経っていないのに、この俺にここまで言わせるなんて。思えばきっと雀夜とセックスしたいと思った時から……一目雀夜を見たあの時から、俺は雀夜の虜になっていたんだ。本当に、なんて奴……。 「……よし、じゃあ桃陽」 「は、はいっ……」  雀夜が唇を意地悪く歪め、眉を吊り上げて笑いながら言った。 「そこで小便してみろ」 「えっ?」  今、何て言った? 「何でもするんだろ? お前が犬みてえに小便漏らしてまで俺とヤりてえ、って思ってるところを見せてみろ」 「………」  嫌だ。そんなこと、誰の前でも一度もやったことない。どんなに変態プレイが好きな客相手でも、そんなこと、一度たりとも── 「できねえのか? 別に無理ならしなくていいぜ。強要はしねえよ」  俺は縋るような目で、じっと雀夜を見つめた。 「雀夜は……そんなの見て、楽しいの?」  嬉しそうな表情を少しも崩さずに、雀夜が紫煙を吐いて言う。 「ああ、楽しいぜ。お前が俺に屈服する瞬間を見れるんだからな。それも最悪な形で、な」  別にそういう変態的なプレイが好きな訳ではないということか。ただ単に、俺が雀夜の言いなりになって「そんなこと」をしてしまう姿を見たいだけ。俺に嫌がらせしたいだけなんだ。 「で……できないよ。できない……」 「よく考えろ桃陽。今俺の言うことを聞けば、お前が望んでること何でもしてやるんだぜ。何回でもイかしてやるし、気の済むまでケツも気持ち良くしてやる。体中舐めてやるし、望むならローションで優しく全身マッサージなんてのもしてやるよ」 「………」  気持ちが傾きかけた。 「俺とセックスしてえんだろ」 「……お、俺……」  強く目を閉じて、頭と心の中をカラにした。 「っ……!」  そして一気に、下腹部に力を入れる。 「ふわ、ぁ……」  雀夜の目の前で今、俺は……。 「桃陽、目を開けろ」 「や、やだっ!」  これ以上俺を辱しめないでほしい。僅かに残っていたプライドも捨てて、情けない姿をさらしているのだ。これ以上は、もう…… 「目を開けて受け入れろ。自分がどれだけ淫乱で恥知らずなのか……俺とヤるために十八にもなって人前で小便してる姿を、自分の目で見て受け入れろ」 「う、ぅ……」  俺はしゃくりあげながら目を開き、大股を開いてベッドの上で放尿している自分の痴態を見つめた。 「も、もう許して……」 「許すも何もねえよ。お前が自分で決めてやったことだろ」 「うー……」  ようやく収まり、俺は大きく深呼吸をしてベッドに横面を押し付けた。
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