意味深

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意味深

卒業式が終わったその日、コーチが卒業旅行ならぬ卒業試合を地元の草野球チームと組んでくれた。何度も練習相手をして貰っている草野球チームで、練習試合をする時は毎度俺ら野球部と草野球チームに別れるのだが、今回はくじ引きをして混合のチーム編成を組んだ。 翔馬とチームが別れた事がわかると残念の様な、ホッとした様な。甲子園を最後に俺は翔馬から距離を取ろうと思っていたが翔馬はドラフト会議やプロ入団決定などで忙しく、その必要もあまり無かった。それでも話かけて来たり、帰りが一緒になりそうものならば不自然にならない様に距離を置き、そのまま俺らは卒業を迎えたのだった。 チーム編成が終わってウォームアップ後に軽くキャッチボールをしてから各々のベンチに戻った。気心知れたメンツなのと、勝敗にこだわりがなかった為か、今日は試合に対する緊張感は無い。とは言え、草野球チームの人達はほぼウチの卒業生でかなり腕もたつ。本気と遊びが混ざった感じで俺はワクワクした。 「山ピー県内就職だったよな、ウチの草野球チーム入るんだろ?」 ベンチで試合開始を待つ間、一個上の先輩であり幼馴染でもある綾瀬がそう言った。 「そのつもりなんだけど、とりあえず仕事に慣れたらかなって。なんせ野球しかしてこなかったんで」 先輩ではあるけど幼馴染の綾瀬にだけには敬語が出て来ない。それを綾瀬も気にしないので毎度こんな感じの話し方になる。 「わかるわかる、俺もそうだったし。やっと彼女とかも作れるな、ははは」 「そーゆう事はまだ考えてなかったけど……綾は彼女いんの?」 「当たり前だろ、こんな良い男中々いねぇっしょ?」 「もし女でも綾は選ばねぇっす」 「なんだとオラっ」 ふざけ合ってるうちにコーチが試合開始を促してきた。選手がグランドに並ぶと球審の「礼」という声に合わせ両チームは脱帽して「お願いします」と挨拶を交わした。 マウンドに綾瀬が入り、キャッチャーボックスに俺も入る。1年先に卒業した綾瀬の球を受けるのは久々だ。試合前に投球練習を何度か行って調子を確かめる。球審が「ワンモアピッチ!(あと1球)」と声をかけたところで綾瀬が剛球を投げて来た。俺は綾瀬が見える様に、口パクで"わるくねぇ"と送ると、綾瀬は、にやけ面を返してきた。 ウォーミングアップしていた野手が使っていたボール含め、試合球以外のボールが全て片付くと、一番バッターがボックスに入って来るのが視界に入った。その姿に体温が上がる。なんだ……いきなり翔馬かよ…… バッターの翔馬は背筋を伸ばし後傾気味に重心を取り、右手でバットを垂直に揃えた。 ああ、翔馬のこの角度もやっぱ良い。 「山ピー、綾瀬先輩と仲良いよな」 突然に話しかけられて唖然とした。言葉の意味も良くわからないで黙っていると、グランドに「プレイ!」と、試合開始の声が響いた。
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