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あれから一年後
「直樹」
「だから外では山口って呼べって」
「俺は別に口外しても良いけど?この関係」
「おっまえは。世間の目がどんだけ風当たり強いか全然わかってない……まぁそう言う所も好きだけど」
「直樹の可愛い基準が意味不明」
「嬉しいクセに」
相変わらず赤面症の翔馬。
憎まれ口聞いてても顔ですぐわかる。プロになった翔馬が多忙なのは勿論の事、俺自身も新卒で入った仕事に慣れるのに精一杯の日々で、この1年は思うようには中々会えなかった。
翔馬がシーズンオフに入ったその日。
朝早くから高校時代良く練習した土手で俺は翔馬を誘ってキャッチボールをした。客席から……もしくはテレビ中継から見てた翔馬より、ずっと小柄に感じる。
「直樹が球団に居たらなぁってまだ思う」
プロに入ってから翔馬のフォームは更に磨きがかかった。こうしてキャッチボールしているだけでもわかる。
「何を言い出すかと思えば」
俺の方は綾瀬と同じ草野球チームで週末にグラウンドでやる程度。それでも腕は鈍ってないはずだ。
「……ほら、俺って凄腕だけどさ……割とメンタル弱いつぅか……繊細なんだよね」
「あははは、何を自分で……デリケートなのはわかってるよ。そこ超えてくのがプロだろ?」
「俺の成績知ってるだろ?自分のリズムが崩れると途端にストライクが入らなくなって自滅しちまう」
「なら自身でメンタル鍛えろよ」
「わかってる……キャッチャーに頼って強いんじゃ駄目だって。直樹はさ、賢いキャッチャーだよね。間の取り方上手だし俺の本来のリズムを自然と戻してくれる。そうするとさ、必然的に試合も安定してくじゃん?そんなキャッチャーってチームにとってもだけど俺にも欠かせない存在なんだよ」
「えらく褒めるな、まぁ……それはお前だから出来たのかも」
「そうかな?綾瀬さんがピッチャーやってた時もそう感じたけど。キャッチャーだけじゃなくてチーム全体も自然とまとまってくし。とにかくさ、直樹は凄腕頭キレキレのキャッチャーなんだよ。扇の要って感じ」
「奥義の金目?」
「直樹には難しい例えだったかな、あはは」
「……このヤロォ……黙ってたけど次のドラフト会議で名前あげて貰ってる。お前のチームに行けるかはわからないけど同じ土俵に立てるかも。ただでさえ会えないのにもっと会えなくなるかもとか思ったけどさ、俺もお前に負けず夢おっかける。んで、お前の事もちゃんとおっかけるかんね」
「……とっくに。追い越されてるよ俺がいつも直樹をおっかけてる。今以上会えなくなるのは嫌だ。余計メンタル崩れる」
「そー言うと思った」
俺は球の変わりにポケットから取り出したモノを翔馬に向かって投げた。それはキラキラと朝日を浴びながら翔馬のグローブへと向かって飛んで行く。
数メートル先に居る翔馬がキャッチしたグローブの中にあるものに視線を落とした。
「えっ!?……これって」
驚きの表情で赤面とか可愛すぎか。
「ウチの合鍵!一緒に暮らそ、翔馬!」
気持ちのカタチはトゲトゲになったりもするけれど、結局はやっぱりハート型に包まれる。
これからも、ずっと。
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