回想、その距離60.6フィート

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病室の窓から春の風が心地よく入って来た。 まだ陽は沈んでいない。俺が倒れてからそんなに時間は経っていないのだ。 翔馬の顔ばかり見ていたが、うなじとシャツの奥、肩の付け根に目が行きムラムラした。この状況で勃起とか恥ずかし過ぎてマジ死ぬ。 ギュッと目を閉じて他の事を考えようとしたがどうしても回避出来ない。回避出来ない上にとんでもない事をリアルに思い出し始めた。 2年に上がって夏の合宿中だった。夕練後、身体はヘトヘトな癖に、先輩が持って来たエロ本ネタに翔馬を含む部員等で"誰が一番飛ばせるか"とかふざけて競った時の…… あの時射精した瞬間の翔馬の顔見てその後何度もマスかいた。や、その間もエロ本なんかまるで眼中に無く、俺は翔馬だけを盗み見てた。 剛球を投げる凄腕ピッチャーの癖に翔馬の指はスゲエ綺麗で。その指で……卑猥な事してるとかマジにくる。射精瞬時の翔馬の悩ましげな顔には本当参った。 ダメだとわかってんのにその後俺は頭ん中でしょっ中翔馬を抱いた。告白してくれた女子も居たけどその子達じゃ全然無理で。 リトルリーグから小中高 俺らは常にピッチャーとキャッチャー。その距離は成長と共に開いていく。 14.02mから16m、そして18.44mイコール60.6フィート。 中学からはプロに上がっても、その距離は60.6フィートから変わらない。 どんなに近付きたくてもその距離は縮まらない。俺と翔馬はこの距離と同じ。そう痛感した高校三年間。 今あるのとは違う関係で、違う性で、出会えてたら良かった……いや、こうして共に長い事野球が出来て側に居られただけでも良しとしよう。 翔馬はプロの道、俺は一般企業就職の道。 キャッチャーとしてプロの道を諦めたのは、 その熱意よりも翔馬への気持ちを断ち切りたかったから……なんて女々しい言い訳。 それでも。俺は翔馬を諦めて前に進む。
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