Ni

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 罪悪感を抱えながらも、古賀との関係は続いた。  寂しさを埋め、じらすように与えられた快感に誘惑されて。  或斗は自身の持つ倫理に打ち勝つことができなかった。  だけど、やっぱり帰宅すれば後悔と罪の念に駆られてしまい……  酷く悪いことをしているのを隠すかのように、部屋に篭りがちになった。  そんな日々を過ごして……  丁度、古賀にハジメテを奪われてから2週間がたったある夜。 「っ、ひ、…はぁっ、はぁっ、あ、あ゛ああっ!!」  部屋で悶々としていると、突然息が苦しくなった。  これは、バッドトリップ……所謂Subの発作のようなものだ。頭の中がぐるぐるして、得体のしれないゾワゾワとした感覚に襲われていく。  朝比を信じたい気持ちと、  身体を汚されてしまった罪悪感と、  浮ついた醜い心が、或斗の中でぐちゃぐちゃに混ざり合った。  しばらく頭を抱えたままベッドにうずくまっていたけれど。  気配を感じてふと顔を上げると、そこには居ないはずの影が映った。 「ひっ、み、みつや、さん……?」  部屋が薄暗いからなのか、表情は見えないけれど……  そこには赤い髪の彼が立っていて。 「みつや、さんっ、みつやさん、ごめんなさい! ごめんなさい! ゆるして、おねがい、ゆるしてっ」  ひゅ、ひゅ、と苦しくなる胸を押さえ、泣きながら許しを請う。  だけど、彼の表情は暗いまま、じっとこちらを見ていて。 「いやだっ、こわいよっ、いやだぁぁあ!」  或斗は、近くにあった枕を、彼に向って投げつけた。  だけど彼には当たらなくて……ぼふん、とそれは床に落ちる。  恐怖を感じた或斗は、手当たり次第に物を掴み投げた。  服、写真立て、アクセサリー、床に落ちていたバックと勉強道具、それから……枕元にあった、錠剤の入ったビン。 「こないでっ、許してくれないなら、来ないでっ、」  投げるものがなくなるまで、それを繰り返して……ゼェ、ゼェ、と息を切らす或斗へ彼は表情を見せないまま近づいてきた。  一歩、足がこちらへ向く度に或斗は身体をビクつかせて怯えた顔をあげる。 「い、や……いやっ……」  そうだ、セーフワード。  止めてほしいときは、セーフワードを言うんだ。  ハァ、ハァ、と上がる息を落ち着かせることができないまま、或斗は声を上げる。 「な、なっちゃん、なっちゃん、たすけてっ、やめてっ、なっちゃん!」  『なっちゃん』……それは或斗と朝比の間で決めた、セーフワードだ。  兄:菜摘のニックネームをセーフワードにしたのは、当時はただの思いつきであったのだが。  プレイ中に(兄弟とはいえ)他の男の名前を出されるのは朝比も気持ちよくないらしく、セーフワードを使う機会はめっきりなかった。  そんなセーフワードを久々に使ったけれど…… 「あっ……」  彼は止まることなく、或斗の首へと手を伸ばしてきたのだった。
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