San

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* * * 「え? 或斗くんが?」  廊下からカゴメの驚くような声が聞こえて、菜摘はソワソワとしながらそちらへ耳を傾けた。  時間は21時をまわったところで、或斗が家を飛び出してから30分程経っている。  或斗が出て行ってすぐ、カゴメは仲間に『或斗くんを見かけたら電話するように』と、連絡を入れたらしい。  すると、丁度駅周辺に居た仲間のうちの一人が電話をくれて……カゴメは廊下でその電話に出ていた。  リビングのソファーに座って待っている時間は、全くリラックスできなくて長く感じた。  ……或斗に、なにかあったのではないだろうか。  そう考えると心配で、不安で、どうしようもない焦りに襲われる。  数分後、電話を終えたカゴメが廊下から戻ってきて。菜摘は、心配そうな視線を送った。  カゴメは少しだけ暗い表情をしながら、「見つかったっすよ」と結果を伝えてくれる。ソファーに座る菜摘の隣に腰掛けて……難しそうな表情を更に曇らせながら「見つかった、けど……」と言葉を濁した。 「けど? なにかあった?」 「いや、なんでもない。或斗くんは大丈夫っすよ」  菜摘の問いに、カゴメは不完全な答えしか返してくれない。  なにか言いにくい事なのか、隠そうとしているのだろうか。  言えないような事だろうが、菜摘には関係ない。  大事なのは或斗の安否なのだから。 「かーくんのバカ。嘘つき」  キッと目を睨ませカゴメを呼ぶと、カゴメはこちらと視線を合わせ、ハッとした表情を浮かべていて。  逸らすスキを与えずに、菜摘はグレアを放ちながらコマンドを発したのだった。 「Say(話しなさい),かーくん」  一瞬でピリっと空気が変わって、カゴメは顔を引き攣らせる。  コマンドによって強制的に話すことを命じられたカゴメは、震える唇が自分の意志とは関係なく言葉を発し始めて、少しだけ辛そうだった。 「……或斗くんが…お、男とホテルに入っていくのを、目撃したそうっス……」 「はあっ?! ホテル?! 相手はだれ?!」 「相手は古賀っていう男で、オレの後輩っス。朝比さんとは対立してるグループの所属で……オレも何度かケンカしたことあって……」  カゴメは、古賀という男について話してくれた。  古賀が所属していた大グループはもうちらばってしまったらしい。だけども、現在は小グループのリーダーをしていて、あちこちで悪さをしている噂もある。  朝比に対して敵対心を抱くグループの中でも、古賀は朝比に対しての恨みが人一倍強かったそうだ。 「昔、なっちゃんが或斗くんと間違われて襲われた事あったっしょ。アレも…古賀のグループのやつらっス」  かごめの言葉に、菜摘は過去の記憶を巡らせた。  そう、あれはたしか……まだ、朝比と或斗が付き合いたての頃。  菜摘が商店街を歩いていると、いかにもなヤンキーに目をつけられて……襲われた。そしてそれを助けてくれたのがカゴメだ……。  菜摘の心にはしっかりとその傷が残っていて。  思い出そうとするだけで呼吸が苦しくなってしまうのを、カゴメが背をさすり落ち着かせてくれた。 「思い出させてごめん……でも、そんな奴らが今、或斗くんに手を出してるんス」 「う、そ……どうしよ、どうしよう、早く助けなきゃっ……」 「でもそれが、どうやら無理矢理って感じでもなかったらしくて」
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