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カゴメの説明によると、或斗は自らの意志で古賀と共にホテルへ入っていったらしかった。
でもきっと、或斗は騙されているに違いない。
甘い言葉をかけられて、ホイホイと釣られてしまったのだ。
そう思った菜摘は、いてもたっても居られなくて……自分のスマホ片手に家を飛び出そうとした。
しかし、カゴメがそれを簡単に許すわけもなく、腕を掴まれ止められる。
まだなにもしていないのに…菜摘の鼓動は早まり、息が切れそうになっていた。
「ちょ、なっちゃん!! どこ行くんすか!」
「或斗を……或斗を、助けなきゃ……っ」
「落ち着いて。大丈夫っすよ」
掴んだ腕を、ぐいっと引き寄せてそのまま身体を包み込まれて。カゴメの腕の中にすっぽりと収められた菜摘は、ただでさえ早くなっていた鼓動がドキドキと脈打つのを確かに感じる。
「もう少しこっちで古賀の事を調べて、それから或斗くんを助ける。だから、なっちゃんは大人しく……」
「ヤダ」
「え?」
大人しく待つように、と言いかけた言葉を遮って、菜摘は首を振った。
大切な弟を助けるのに、大人しくなんかしていられない。
「僕も或斗を助けたい。おねがい、かーくん。僕にも協力させて」
*
「そォいや、或斗がトリップするとき、決まって『なっちゃん』って名前呼んでるじゃん? もしかして女でもいるわけ?」
古賀にそう言われて、或斗は首を傾げた。
『なっちゃん』とは……菜摘の事だろうけれど。
菜摘をなっちゃんと呼んだことはないし、その言葉を発した記憶が、或斗の中にはなかった。
「いえ、彼女はいませんけど……」
「ふぅん? ま、いいやー。どうせ酒のんで気持ちよくなっちゃって、覚えてないんだろォし。彼女がいたとこで関係ねェわ」
古賀に「浮気をやめる」と伝えてから、1週間……この関係は未だに続いていた。
カゴメや菜摘と言い争って家出をしてしまい、そのまま家には帰れなくて……或斗は古賀の家に泊めさせてもらっている。
服は古賀が貸してくれて。下着も貸すよと言ってくれたのだが、さすがにそれは断った。(近くのファッションセンターで必要最小限は揃った)
古賀の家に半同棲状態。そうなれば、毎晩、身体を求められるわけで……古賀の温もりを知っている或斗が、それを拒めるわけなかったのだ。
「ねえ、古賀先輩」
ふと、気になった事があって、或斗は古賀に問いかけた。
「俺、夜中うなされてませんか?」
菜摘に、それを指摘されたことがあった。
最近、毎晩うなされているよ、と。
もしかして、古賀の前でもうなされていて、迷惑をかけているのではないかと、心配になったのだが……。
「いやァ、別に? 特にそんなことないけど」
と、ケロっとした回答に、ほっ、と安心した。
「そうですか。よかったです」
「なァに。もしかして、ビビってんの?」
くつくつと笑いながら古賀はそう言って、或斗をベッドに押し倒す。
まるで或斗の不安をすべて知っていて、それを慰めるかのように大きな手が頬を撫でた。
「怯えんなよ、或斗。言わなきゃバレねェんだから。二人だけの秘密だろ?」
「う、うん……」
「オレにすべてを預けろ。そうすりゃァ、永遠に気持ちよくしてやるから」
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