親友とはのろけを聞かせるために存在する

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「おはようございます」 「おう、おはよう」 営業課に着いて、真っ先に私に挨拶をし返してくれたのは、課長だった。出社早い。いつも、もっとぎりぎりなのに。 昨日、あんなことがあったから、今日は課長と顔を合わせづらい。 プロポーズの返事…というか、そもそも、課長の真意も確かめてないままだ。 いつか言わなきゃとは思うけれど、あれ以来、課長も変わりないし、私も課長にそのことを話すきっかけをつかめないままだった。 私はそのままデスクについて、パソコンを起動させる。 「御園」 「は、はいぃぃぃっ」 気まずいなと思っていたせいか、呼ばれただけで、声が裏返ってしまった。私、不審過ぎる。 「なんだ、おばけに呼ばれたみたいな声出して。さては、俺に言えない疚しいことがあるな。経費の使い込みか? 取引先とのトラブルか? ほら正直に吐け」 私の言動がおかしすぎたせいか、課長は首を傾げながら、私のデスクまで来た。 タバコの匂いと課長の使ってる柔軟剤の匂いが、まじりあって、私の鼻をくすぐる。ち、近いです、課長。 「な、何もないですよ」 始業前とはいっても、他にも営業課の社員は出社してきてるし、こんなところで、課長のっプロポーズ云々の話なんて出来ない。私は否定した。 その否定も、どもっちゃって、却って怪しくなるやつだったけど。 「そうか?」 「そうです、部下を信じてください」 「信じてるよ。特にお前のことはな」 「……」 こういうことを、さらっと言うとこが、この人の困ったところだ。
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