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う、煙い。もう吸い殻になってしまってるのに、匂いはまだ立ち込めてる。
「御園は喫煙するんだっけか?」
知ってるくせに、課長はにやにや笑いながら、私に聞く。
吸いませんよ。けど、今ならここ誰もいないし、秘密の話をするならぴったりの場所だ。
「あの課長」
「ん?」
「菜津子の結婚式の時に…言ってたんじゃないですか。俺と結婚とか…その…」
「ああ、言ったな」
「あれって…」
「どうした、今更そんな話蒸し返してきて
「いやあの」
「俺と結婚したくなったか?」
「逆です!」
反射的に強い言葉で言い返してしまった。
「彼氏が出来たので、課長のプロポーズはお受けするわけにはいかなくなりました」
そもそも本当にプロポーズだったのかもアヤシイけど。
私が唐突に宣言すると、課長は一瞬ぽかんとしてから、大口を開けて笑い出した。
「そうかそうか。良かったな…と言いたいところだけど、今度の相手は大丈夫なんだろうな」
「大丈夫、とは…」
「浮気したり二股掛けたりした挙げ句、お前のことを捨てたりしない相手か聞いてるんだ」
うーわー、この人、人の古傷をざくざくえぐってくる。
そして、私はそんなに男運悪い女として認定されてるのかな、菜津子にも、課長にも。
「大丈夫だと思います…多分」
「おいおい、こっちの不安を煽ってるぞ、そのセリフ」
そう言って課長はくくっと笑う。
「本人のスペックが高い割に、恋愛スキルは低そうだからな、お前」
あんな業務命令みたいなプロポーズした人に、恋愛スキル低そうとか、言われてしまった。
「まあ、万が一何かあったら、お前の保険くらいにはいつでもなってやる」
肩にぽんと手を置いて、課長は先に喫煙ブースの扉に手を掛け、出て行った。
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