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「智之さん、御曹司ってやつですか」
「あはは、そんな格好いいものでは…僕は会社経営に向いてないので、そういうのから離脱したんです。父が後継者に…と信頼して育ててる方もいますしね。――咲良さんは、僕が会社跡取りの御曹司の方が、良かったですか?」
初めて聞く話だらけで、混乱してる私に、智之さんは更に、意地悪な質問をぶつけてくる。
「え、いや、御曹司って、傲慢で俺様なイメージが…あれ、これは私がよく読んでる小説のイメージか。あ、でも智之さんて、立ち居振る舞いとか、姿勢とか、品があるなって…、後出しじゃなくて、これは本当に思ってました」
実際、その高潔で、凛とした雰囲気に私はやられたのだと思う。言葉遣いも丁寧だし。
「でも御曹司としてでなく、馴染みの喫茶店のマスターとして私は、智之さんと出会ったので、やっぱりマスターの智之さんがいいです」
混乱しつつも、本音を言うと、智之さんは優しく微笑んでくれた。
「ありがとうございます…」
「お礼、言われるところですか?」
「言いたいところです。普段なら敢えて言わないようにしてるんです、家族のことは」
どうしてなのか、その理由はなんとなくわかる。
智之さんの立場だけで、近づいてきたりする人がいるからだろう。
「本来なら、付き合い初めの時に話さなければいけなかったのに、咲良さんの僕を見る目が変わったら嫌だなと思い、なかなか切り出せなかったんです。だから、マスターとしての僕がいい、と言ってくださって嬉しい」
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