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「やばいな…」
お互いの情熱を確かめ合った後で、智之さんは、そうひとりごちた。
「…え、何がですか?」
聞き捨てならなくて、私はつい、智之さんの腕の中で身じろぐ。
「手放せなくなりそうで…」
背中に熱い腕が回って、抱きしめられる。
「え、手放す気なんですか?」
「そういう意味じゃないですよ。…なんていうか…物理的に。すぐに一緒に住みませんか?とか言い出しそうな自分が怖くて…」
「ふふ。押しかけてもいいんですか?」
冗談めかして言うと、智之さんはふっと遠い目になった。天井じゃなく、何処か遠いところを見てるような目。
「もう少し…待っててください」
「はい」
そんな幸せ過ぎる会話をしたあとで、ひとつだけ気になってたことを尋ねてみた。
「この家って…奥様も住んでらしたんですか?」
「え!」
「いや、そのインテリアの趣味とか…元奥様のなのかな、って」
「違います、違います。ここは離婚れてから、僕が一人で住むように買った家で…」
「なら良かった」
「…咲良さん、今嫌な想像してましたね」
「え、何のことですか?」
「正直に言ってください」
そう言うと、智之さんは私の髪をわしゃわしゃかき乱す。
「やー、やめてください。正直に言います。ちょっとだけ…想像しちゃいました。もしかしたら、このベッドで…って」
「全く。そんな無神経な男じゃないですよ」
少し拗ねたように言う智之さんが可愛くて、頬にキスをした。
「ですよね。…大好きです、智之さん」
「……ホントにあなたは…」
ずるくて困る。小さく呟いてから、智之さんは、私の唇にキスを落とす。
私と智之さんが初めて過ごした夜は、こんな風に更けて行った。
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