臆病者の恋

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結婚生活は一見、穏やかに問題なく過ぎていった。 簡単なことだった。僕が、彼女の言うことにさえ、頷いていればいいのだから。 それに、仕事が忙しくて、帰るのが遅く、余り彼女と接する時間が少ないせいもあったかもしれない。華絵にしてみれば、いつも着飾っていられて、近所のママ友仲間とランチが出来れば、(おっと)という存在は、それほどあってもなくても良かったのだろう…と思う。 それでよしとしていた僕も、今にして思うと、全く持って情けないけれど。 子どものことも、考えなければいけないのに、どちらからもそんな話は出なかった。 綻びが出たのは、結婚して5年が経過したころだった。その頃、社内の友人が亡くなった。同期で同い年。部署は違うし、立場も違っていたが、共に何かあった時は相談したり、愚痴をこぼし合ったりして、励まし合える仲間だったのに。 意欲も気力も、少しずつ、けれど確実に落ちて行った。集中力を欠いていて、ミスが多くなり、そのミスを穴埋めするために、また別の箇所に歪が生まれ…。まさに貧すれば鈍する。 何をやってもうまく行かなくなっていた。
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