有給とって初デート

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有給とって初デート

バウムの定休日は火曜日。 基本、アルバイトの子は、コーヒーを淹れたりしないから、つまり、智之さんはその日しか休みじゃない。 年末年始とかお盆は、別に臨時休暇あった気がするけど。 「どこか一緒に行きたいですね」 付き合うことになって、一週間。 お店からの帰り道にぽつりと言ったのは、智之さんだった。 「どこかって…」 「いや、どこでもいいですけど。咲良さんとなら、どこでも楽しめそうですし」 「デートってことですか?」 「デートしたくないですか?」 「したいです! 有給もぎ取ってきますね」 目一杯宣言すると、智之さんはお得意の静かな笑みを湛えて言う。 「無理はしないでくださいね。僕のわがままなんで」 いや、でも私もしたいし。 今年から有給取らないといけなくなったんじゃなかったっけ。 課長に応相談、だ。 「課長」 昼食後、喫煙室で一服を終えて出て来た課長を捕まえて、切り出す。 「再来週の火曜、有給もらってもいいですか?」 言いながら、既に記入済みの申請用紙をちらつかせた。 「あー珍しいな。御園が何でもない時に有給なんて」 「ちょっと私用で出かけたいところがありまして」 「ふーん、別に今は大して仕事も忙しくないし、構わないぞ」 と課長はあっさり判を押してくれた。 「あざーっす」 「えらい機嫌がいいな。デートか?」 いつもの調子で課長に言われたことが、ずっと放置したままのプロポーズについて確かめるチャンスに思えた。 「あ…、えっとそのことなんですが。ちょっと今いいですか?」 今しかない。そう思って、私は課長が出て来たばかりの喫煙ブースに自ら足を踏み入れた。
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