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二度目のお宅訪問は一度目よりどきどき
マスターのマンションは二回目。
だけど前回の時は、非常事態だったから、緊張もドキドキもなかったけれど。
もうアラサーだって言うのに。いい社会人だって言うのに。二度目のおうち訪問は、期待と不安がごちゃ混ぜになって、鼓動も忙しない。
…って言うか、『付き合う』ってことで、いいんだよね。
繋いだ手の先のマスターを見上げる。
お店からここまで歩いて15分。お互い、殆ど話さなかった。
だけど雰囲気が険悪だった、とかじゃなくて。
何か一言でも、言葉をしゃべったら、この空気が壊れちゃいそうで。
「どうぞ」
「お邪魔します」
前回は玄関先で失礼しちゃったけど、今度は靴を脱いで中に上がる。
マスターのマンションは、白い壁に、作り付けの棚や家具が黒で統一されてる。スタイリッシュでオシャレな部屋だった。仕事忙しいだろうに、部屋の中は綺麗に掃除されてる。
当たり前だけど、キッチンのカウンターには、コーヒー用の器具がたくさんあって、あれこれ触ろうとしたら、「だめですよ」とやんわりと言われてしまった。
「ご、ごめんなさい…」
ガラス器具に触れていた手は、いつの間にかマスターの手に握られてる。
「咲良さんが謝る必要ないですよ。けどそういうのは全部僕がやります」「は、はい」
言われてる内容よりも、手と手が触れてることにドキドキしてきちゃう。
あー、やばいな。自分で思ってるよりずっと、私この人のこと好きなんだ…。些細な言動に揺れる心に、触れた先から熱くなる指先に、そんなことを自覚させられる。
「これ、珍しいなと思って。コーヒーメーカーなんですか?」
私はポットみたいな形のシルバーの容器を指差した。
「見たことありませんか? これは、エスプレッソマシンなんです。マキネッタとも言いますね」
「エスプレッソ」って、にがーいコーヒーを、ちっちゃなカップで飲むあれか。好奇心でいっぱいになっちゃった私に、マスターはいち早く気がつく。
「…飲んでみます?」
「はいっ」
即答したら、笑われちゃった。
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