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きみの春を知りたい。
わたしの名字は『 相沢 』
きみの名字は『 渡辺 』
学年が上がったばかりの頃は、クラスで一番席が離れていたから、名簿で見た名前くらいしか知らなかった。
夏休みが明けるまでの半年間、その席が変わることはなかったけど、五月にはきみのことを知っていた。
雨で延期を重ねて、それでも五月の初めに実施されたオリエンテーションのときに、きみを知った。
一年生のときに唯一仲良くなった友だちとはクラスが離れてしまい、周りの席は男の子ばかりなのもあって、新しい友だちを作れずにいたわたしと、いつも目を伏せて、口元だけで感情を表現するきみに、似たようなものを感じていた。
秋に席替えをして、きみの隣の席になって、それからの半年間、わたしはきみの色んなことを知ったけど、きみと目を合わせたことは一度もなかった。
窓の外を見下ろして、伏したきみの目に映る景色が羨ましかった。
きみの目に映る春は、どんなだろう。
きみの好きな色、嫌いな曜日、いつも聴いている音楽、荒れた手に滑らせたハンドクリームの匂い。
足りなくて、知りたくて。
ねえ、わたしね、きみを知りたいの。
桜が散る前に、きみの春を知りたい。
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