きみの春を知りたい。

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◇ 春が終わる。 結局、親しいと呼べるほどの関係を築けた友人はいないけど、最後は笑って皆に「またね」って言えた。 記念写真の端っこで、わたしはへたくそに笑ってた。 そんなわたしの隣で、渡辺くんは相変わらずレンズに瞳を向けていなかったようで、写真越しにも目が合うことはない。 早々に教室を出て行く渡辺くんを追いかけて、静まり返る廊下にふたり分の足音が流れていく。 「渡辺くん、まって」 わたしには気が付いているはずなのに、早足に行ってしまう渡辺くんを追いかける。 心のなかで呟いたつもりの小さな声は渡辺くんの耳に届いたらしく、足音がひとつ分、ぴたりと止まる。 「なに」 「えっ、あ……」 ポケットから伸びたイヤホンが渡辺くんの耳に繋がっているのが見えていたから、声が届くとは思っていなかった。 呼び止めて何を言いたかったのか、わたしが自分に問いたい。 三年生になっても同じクラスがいいね、とか渡辺くんとたくさん……実際は、たぶん数えるほどだけど、お話ができて嬉しかった、とか連絡先を知りたい、とか渡辺くんに言いたいことがたくさんあるんだよ。 だけど、それらを素直に伝えられるほどのものが、渡辺くんとわたしの間にないこともわかってる。 「相沢さん、このあと暇?」 「う、うん…? 暇だけど……」 黙り込むわたしを放って行ってしまうことはなく、わたしの返事に少し考え込む仕草をしたあとに、少しだけ顔を上げた。 それでもやっぱり、目は合わなくて。 わたしがもう少し背の低い女の子だったのなら、渡辺くんを見上げて、自然と覗き込むように視線を交わらせることができたのかな。 不自然でいいから、渡辺くんの目を覗いてみたいって思うこともある。 だけど、渡辺くんはそんなの絶対に嫌がるから、しない。
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