きみの春を知りたい。

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学校の敷地から足を踏み出した瞬間から、爪先はいつもと真逆の方向を向いた。 フロアの違う同学年の生徒や、一年生たちは疎らにいるけど、名前も知らないわたし達に目を遣る人なんて、誰もいなかった。 隣を歩いて、肩を並べて。 繋いだ手には、引く力も引かれる力も必要なく、ただ繋いでいることだけを意識していられた。 「俺は徒歩で通学してるから、この辺はよく知ってるけど、相沢さんは?」 「駅までは一番近い道を通るから、こっちは来たことなくて……だから……手、離さないでね」 語尾が掠れて、頬や首に熱が集まる。 この距離ならどんなに小さな声だって拾える。 横目に見られたら、わたしの横顔が赤いことだって、きっとバレてしまう。 渡辺くんは何も言わない代わりに、わたしの手を一層強く握った。 ちいさく、息を吸い込む音が聞こえた。
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