きみの春を知りたい。

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渡辺くんは知っていて、わたしの知らない道をふたりでゆっくりと歩いていく。 狭い道で誰かと行き違うときだけ、パッと手を離して渡辺くんの後ろを歩くけど、行き違ったあとはすぐに隣に戻って、手を繋ぎ直す。 まるで、繋いだ手が当たり前みたいに。 真横を歩いていると、とある期待が頭を過ぎるけど、わたしはそれを行動に移すことができなかった。 首を傾げるか、膝を曲げるか、腰を低くするか、そのどれかをすることで、渡辺くんの目を見ることができるんじゃないかって。 あまりに自然と手を繋ぐから、外の音をかき消すほどに激しく鳴る鼓動もすっかり落ち着いて、時折渡辺くんが深く吸い込む空気の音も綺麗に拾えていた。 知りたいんだよ、渡辺くん。 繋いだ手の意味を。 きみの目に映る世界を。
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