きみの春を知りたい。

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繋いだままの右手とは反対の左手で前髪の下から涙を拭おうとしたとき、わたしのよりも大きな手が、遠慮がちに前髪を掬いあげた。 「相沢さん」 額に当たる指先が冷たい。 薄い涙の膜越しに渡辺くんと目が合っていることが、信じられなくて。 「わたなべ、くん」 「なに? 相沢さん」 「わたしね……」 ずっと、きみの目を見てみたかった。 きみの顔を覗き込んでみたらそんなことは簡単で、だけどきみは嫌がるだろうから、絶対にしないつもりだった。 本当は、しないじゃなくて、できなかった。 わたしの瞳も、わたしが遮っていたから。
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