きみの春を知りたい。

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「俺、相沢さんのことを知りたかった」 「わたしも渡辺くんのこと、知りたかったよ」 「……たぶん、俺の方が先にそう思ってた」 「そんなことないよ。いつから?」 「去年の、四月」 四月はわたしと渡辺くんの距離が一番遠かったとき。 わたしが渡辺くんを知りたいと思うようになったのは、少なくともオリエンテーションのあとからだ。 「二年生になった日、一番に教室を出て行った相沢さんのこと、追いかけるつもりなんかなかったんだけど、俺も早く帰りたかったから自然と後ろを歩いてた」 「そうだっけ……覚えてないや」 友だちとクラスが離れたショックとこれからの学校生活への不安で一杯になってしまって、とにかく誰もいないところへ行きたかったんだと思う。 「去年は開花が遅かったから、ちょうどその頃に桜が満開になってたんだ。相沢さんは、校舎のすぐ横の桜を見上げてた」 そうだ。あの日、空がすごく綺麗で、見上げてみたら視界いっぱいに桜の花びらが広がっていたことを覚えてる。 「そのときからずっと相沢さんのことを知りたかった。いつも顔を上げないから、あの日相沢さんの目に映った桜が羨ましかった」 渡辺くんの目に映るものを知りたかったように、渡辺くんもわたしの目に映るものを知りたかったの?
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