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そう言った瞬間、彼は何故か顔を歪めた。どこか苦しそうにさえ見えるその表情に、身体の内側が小さくざわめきたつ。さらに手のひらを強く握りしめた。
寺島くんは小さな吐息をついたあと、ボソリと呟いた。
「……進路がなかなか、決められなくて。先生に相談にのってもらいたいんだけど」
そういってこちらを見つめた寺島くんの瞳は、まるで迷子になった子供みたいだった。
不安げで、悲しげで。なにより切なそうで。
そんな表情をするなんてずるい。そう思うのに、鼻の奥がつんするような感覚の後、涙が滲みそうになって、慌てて俯く。
なんとか表情を変えないように堪えながらもう一度顔をあげると、寺島くんはじっと、わたしの答えを待つように見つめていた。静かに、でも強い光を湛えた瞳で。
「職員室で……」
「え?」
「職員室で良ければ、今日の放課後、相談を受けます。それでいいですか?」
進路指導は普通、放課後の教室で、生徒と1対1でする。だけどふたりきりで教室にいるなんて、今のわたしには絶対ムリ、だ。
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