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「うん。古今和歌集に載ってる歌なの」
へえ、と相槌を打って、みくの言葉を待つ。今日から古文もみくが教えてくれんの? なんて茶化したりはしない。だってきっと、なにか意味のある言葉だ。
「えっと。ホトトギスはちょうど今、5月の季語なの。『あやめ』は植物なんだけど、物事の筋道とか分別って意味も持つ言葉で……あっ」
まるで授業中のようにすらすらと話していたみくが、突然言葉を切った。
「ん、なに?」
「なんだか授業みたいになっちゃって、ごめんなさいっ」
眉毛を八の字にするみくがあまりにも通常運転だから、つい口元が緩む。俺の好きになった人は、いつでもどこでも誰よりも可愛い。
「あはは、大丈夫。で? どんな意味?」
「意味は……簡単に言うと」
「うん」
「わけがわからなくなるくらい、夢中で恋してます」
俺を真っ直ぐに見るみくの瞳に、窓からの西陽が映りこんで熱っぽくキラキラ潤む。
「……それって、俺に、だよね?」
わざわざ聞き返す俺は本当にガキ。だって、そんなお喋りを続けないと、この場で今すぐみくを抱きしめちゃいそうなんだ。
「うん。わたしも同じ気持ちなの。わたし、寺島くんの未来を一緒に歩きたい」
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