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「眼鏡、ズレてるよ」
細くて長い指が、眼鏡のフレームにむかって伸びてくる。
「じ、自分で直します! あ……」
慌ててふり払おうとしたわたしの手は、彼のひんやりとした手に掴まえられてしまった。
「手、ちっちゃいね。みくセンセ」
力一杯手を引っ張ってそこから逃げようとしたけれど、びくりともしない。それどころか、逆にさらに強く掴まれてしまう。
じっとこちらに視線を固定したまま、わたしの手はゆっくりと彼の口許に寄せられ、五本の指それぞれに唇を落とされていく。
「ひゃっ……やめ……て」
声が震えて言葉にならない。力もはいらない。彼は最後にわたしのくすり指を強く噛んだ。
「い、いたい!」
本当に痛かったから小さな子供みたいにそう訴えると、彼は眉毛をさげて、痛かった? ごめんね。あんまり美味しそうだったから、つい。そういって小さく笑った。
力が抜けてすっかり大人しくなったわたしの手を解放すると、なんの造作もなく眼鏡を外してしまう。
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