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鏡に映るわたしは目が潤んで、頬が赤くて。まるで恋をしているみたい。
ぶんぶんと頭を振る。昨日、いきなり抱きしめられてびっくりしただけ。そのせいでよく眠れなかったから、目もしょぼついている。
背筋を伸ばす。鏡に映る、どこかぼんやりとした表情のわたしに背を向けて、歩き出す。
教室の前についても、なかなか中に入る勇気がでない。はあ、と一度息を吐いて呼吸を整える。予鈴のチャイムが鳴り出したのと同時に、思い切ってドアをあけた。
きりーつ。
怠そうな日直さんのかけ声。それに合わせて、ガタガタと机と椅子が音をたてる。
生徒たちが立ち上がったけれど、恥ずかしくて寺島くんのほうは見れないから、何となく教卓に視線をおとす。
礼。着席。
おはようございます。なんとか顔をあげて挨拶して、すぐに出席簿を手にしたその時だった。
「あー! みくセンセ、今日、眼鏡してないじゃん。オトコでもできたの?」
いつもわたしをからかってくるメンバーの1人、加藤くんが予想通り、ニヤニヤ笑いながらツッコミをいれてくる。
彼のセクハラ発言は毎度のこと。ため息をつきながら、用意していたセリフを舌に乗せる。
「眼鏡、壊れちゃったから、修理に出したの」
「眼鏡してないほうが、断然かわいーじゃん! 俺、センセイとつきあいたい」
どっと笑いが起きる。
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