side:Kanata

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てか、俺は追いかけて、一体どうするつもりなんだろう。 ……わかんない。でも、ただ抱きしめてやりたい。俺がそうしたい。 みくちゃんの足取りを追って、職員室前の廊下に差し掛かった時。俺の目に飛び込んで来たのは、探してたみくちゃんの小さな背中だった。 だけど──。 抱きしめたかったその背中には、もう他のヤツの手が回されていて。 国語の松井だ。どうしてヤツが、みくちゃんを抱きしめてる? ドクンと波打つ心臓。全身の血が沸騰していく。怒りで手が震えて、それをぎゅっと握りしめた。じゃないと、松井を殴りそうで。 深呼吸をひとつ。そして口を開く。 「あんたら、ナニやってんの?」 俺の口から出てきたのは、驚くほど低くて冷たい、無機質な声。本当は怒鳴りたいのを必死で堪えた結果だ。 「て、寺島くん……」 振り向いたみくちゃんは、目を大きく大きく見開いて。その顔が泣きそうに歪む。 松井の方は慌てもせず、ゆっくりとみくちゃんの体を解放した。そしてこちらに微笑んで見せる。 「変に誤解させちゃったね。今、小鳥遊先生とぶつかっちゃって。支えてあげてただけだよ」 それが本当かどうかなんて、どうでもいい。みくちゃんに触ったことが、抱きしめたことが、どうしても許せなくて。 「あっそ。……みく! 行くぞ!」 気づいたら俺は、まるで松井から奪い返すみたいに、彼女の手を強く引いて歩き出していた。
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