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「寺島くん?」
おそるおそるそう呼びかけると、彼は吐息をひとつ、ついた。それからわたしのほうに向き直る。
「ここさ、時々くんの。……女の子が教えてくれたから。鍵がかかっていないうえに、滅多に誰もこないからって」
「え……」
思わず後ずさる。そんなわたしをみて寺島くんは、少し笑った。なぜだか少し、悲しそうにみえる笑顔だった。
「だからね。助けを呼んでも誰もこないんだよ、みくちゃん」
それからわたしとの距離をつめるように一歩前にでたから。
心臓が破裂しそうなほど鼓動が激しくなる。あまりにもその音が大きく耳に響いて、この部屋の空気まで揺れている気がしてしまう。
「ねえ」
背の高い彼が、体を少し折り曲げて顔を寄せた。わたしを覗きこむ瞳は、怖いくらい強い光を帯びている。
ぎゅっと手のひらを握りしめ、なんとか落ち着こうと、もう一度あとずさる。
何かが背中にぶつかって、振り返ると古い教卓だった。
それ以上進めない。逃げ場がない。
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