147人が本棚に入れています
本棚に追加
/99ページ
side:Kanata
怯えたように一歩後ろに下がったみくちゃんは、ライオンの群れに囲まれたウサギみたいで笑えた。
息苦しい。
さっき走ったから? それとも、この部屋が家の近所の古本屋みたいに埃くさいから?
一歩前に出て、あいた距離を詰める。ウサギちゃんの大きな瞳が、今にも泣き出しそうに揺れる。
あー、まじで息苦しい。
「ねえ」
顔を覗き込んだら、彼女はまた後ずさりした。でも、その小さい背中を、彼女の後ろにある教壇が受け止める。
あーあ、もう逃げられないね。みくちゃんどうするの?
てか、松井が抱きしめるのはよくて、俺だと近づいただけで怯えるの、なに? 取って食われるとでも思ってんの? じゃあそうしてあげよっか?
「なんでそんな赤くなってんの?」
「赤くなんか、あり、ありませんから!」
「かわいー。ねえ、それってわざと誘ってんの?」
白い頬に手を伸ばせば、彼女が小さくびくっと肩を震わす。それでも構わずに触れたら、まるで獰猛な爪で掻きむしられたように胸が軋んだ。
「て、寺島くん……やめ、やめなさい! ひ、ひとを呼びますよ?」
小さく震える桜色の唇。絶体絶命の大ピンチだってのに、ウサギちゃんは必死で『センセイ』の顔をする。
あー、すげーイラつく。胸が何かに圧迫されて、まじで苦しい。心臓がズンズン音を立てる。
それを隠すように、俺はにっこりと笑ってみせた。
「眼鏡、ズレてるよ」
最初のコメントを投稿しよう!