side:Kanata

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怯えたように一歩後ろに下がったみくちゃんは、ライオンの群れに囲まれたウサギみたいで笑えた。 息苦しい。 さっき走ったから? それとも、この部屋が家の近所の古本屋みたいに埃くさいから? 一歩前に出て、あいた距離を詰める。ウサギちゃんの大きな瞳が、今にも泣き出しそうに揺れる。 あー、まじで息苦しい。 「ねえ」 顔を覗き込んだら、彼女はまた後ずさりした。でも、その小さい背中を、彼女の後ろにある教壇が受け止める。 あーあ、もう逃げられないね。みくちゃんどうするの? てか、松井が抱きしめるのはよくて、俺だと近づいただけで怯えるの、なに? 取って食われるとでも思ってんの? じゃあそうしてあげよっか? 「なんでそんな赤くなってんの?」 「赤くなんか、あり、ありませんから!」 「かわいー。ねえ、それってわざと誘ってんの?」 白い頬に手を伸ばせば、彼女が小さくびくっと肩を震わす。それでも構わずに触れたら、まるで獰猛な爪で掻きむしられたように胸が軋んだ。 「て、寺島くん……やめ、やめなさい! ひ、ひとを呼びますよ?」 小さく震える桜色の唇。絶体絶命の大ピンチだってのに、ウサギちゃんは必死で『センセイ』の顔をする。 あー、すげーイラつく。胸が何かに圧迫されて、まじで苦しい。心臓がズンズン音を立てる。 それを隠すように、俺はにっこりと笑ってみせた。 「眼鏡、ズレてるよ」
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