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「じ、自分で直します! あ……」
眼鏡のフレームに伸ばした俺の手を振り払おうとした彼女のその手を、逆に掴まえる。
ダメだよ。もう逃がさないって決めたから。
「手、ちっちゃいね。みくセンセ」
逃れようとする力んだ手を口元に引き寄せて、細い指に1本1本キスを落としていく。
「ひゃっ……やめ……て」
消え入りそうな声も感触も、どうにかなりそうなくらい甘い。そのまま全部食べてしまいたい衝動に駆られて、思わず、くすり指を強く噛んだ。
「い、いたい!」
「痛かった? ごめんね。あんまり美味しそうだったから、つい」
手を解放してやると、みくちゃんはすっかり脱力して、潤んだ瞳でただ俺を見上げる。俺しか映っていないその目は、でもレンズ越しで、すごく遠く感じた。まるで『センセイ』って肩書きみたいに邪魔で。
そっと眼鏡を外してやると、無防備な瞳があらわになった。ゾクゾクとせり上がる欲望。
「俺、眼鏡ないほうが好み」
あーもう、その綺麗な瞳も、細い指も、小さな唇も。全部食べちゃいたい。全部食べて、俺のものにしたい。
「てら、し……」
「うん。しゃべらなくていいから。俺のいうことだけ聞いて?」
でも、そんな安い衝動を、逆らえないほどもっともっと大きな感情が飲み込んでいく。
心臓が痛い。息苦しい。欲しくてたまらない。
ねえみく、俺は──。
「みくセンセ、俺のこと、好きになろ?」
好きだよ、みく。だから、俺だけ見てよ。
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