side:Miku

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side:Miku

「みくセンセ、俺のこと、好きになろ?」 手慣れた口説き文句。 眼鏡を取り上げられてしまったから、顔が良く見えない。だけど口元には皮肉っぽい笑みを浮かべているのがわかる。 わたしは先生で、寺島くんは受け持ちの生徒。年だって5歳も離れているのに。完全に寺島くんのペース。動揺しすぎている自分が情けない。 ほとんど残っていない教師としての威厳を掻き集めて、口を開こうとしたとき、寺島くんがわたしに顔をゆっくりと近づけた。 目が悪いわたしでも彼の表情がはっきりとわかるくらいの距離。 その瞬間、言おうと思っていた言葉の欠片すら、どこかに落ちていってしまった。 彼の瞳は、笑みを浮かべた口元を裏切るように、少しも笑っていなかった。 いつもの軽い雰囲気なんてまるでない、苦しげにさえみえる瞳で、わたしをじっと見つめている。 さきほど噛まれた指先がじん、と痺れる。まるでそこから毒がまわってしまったみたいに、わたしは動けない。 それでも悪あがきするように必死で口を動かした。 「て、……」 掠れて震えてしまった小さな声。けれどそれすら、彼は許してくれなかった。
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