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side:Kanata
後悔っていうのは文字通り、いつも遅れてやってくる──。
オレンジ色に暮れなずむ校舎。高い窓から漏れてくる楽器の音。少し冷たい風。
「寺島くん……」
その風に消えてしまいそうなほど、小さく震えた声。
「なに?」
俺は早く部活に行きたくて、校舎のてっぺんにある時計をチラチラと見上げていた。
「……………す、好きなのっ」
生クリームの最後のひと絞りみたいに、やたら長い溜めのあと、ポンッと勢いよく飛んできた言葉。でも甘いものはそんなに好きじゃない。食べる前からゲップが出そう。
「好きって、俺のこと?」
聞き返したら、その子はコクリと頷いた。すぐ先のグラウンドではもう、サッカー部のみんなが練習を始めている。
「そっか。ありがとね」
雑な言葉と笑みが、地面に落ちて校舎の影に溶けていった。
あ。スパイクの紐、緩んでる。直そ。
「そっ、それだけっ?」
しゃがみ込んだ俺のつむじに、出し切ったはずの生クリーム爆弾がまた落ちてきた。
「じゃあどうしてほしいの?」
「ちゃんと……ちゃんと、気持ちを……受け取って、ほしい……」
ぎゅっと握りしめた両手は、その声と同じくらい震えている。なんか鬱陶しくて。
「ふーん、わかった。じゃあ聞くけど、なんで俺のこと好きなの?」
軽く苛立ちながら、そう尋ねた。
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