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だけどキモチが落ち着くまで。きちんと教師として彼と向き合えるようになるまでは、こうするしかない。
「先生」
そう呼びかけてきた声に、ぴくりと身体が反応する。恐る恐る声の方に振り返った。
硬い表情をした寺島くんが、立っていた。
見つめあう数秒間。その数秒間で一気に封印しようとしていた感情が、溢れ出してしまう。
彼との激しいキスに溺れた、痺れるような切なさと喜び。好きだと囁かれたあの声に、現実に引き戻され、彼を突き飛ばしたときの絶望感。
それらすべてがありありと蘇り、胸を抉られる様な痛みに、たまらなくなり、視線を床に落とす。
でもここは教室で、わたしは教師だ。ひとつ吐息をついて手のひらをぎゅっと握りしめた。それから。教壇のうえに立ってもまだ見上げてしまう彼をもう一度、見つめ返す。すべての感情を押し殺して。
「なんですか、寺島くん」
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