150人が本棚に入れています
本棚に追加
side:Kanata
放課後。踵を踏んづけたままの上履きで歩く廊下は、まだ全然日が落ちる時間じゃないのに、なんとなく薄暗い。
窓の外に目をやったら、ついさっきまで青かった空いっぱいに、ねずみ色の重たい雲が横たわっていた。今にもぽつりと泣き出しそうで、サイアク、と独りごちた。傘なんか持ってない。
てか、泣きたいのは俺の方。
『……進路がなかなか、決められなくて。先生に相談にのってもらいたいんだけど』
話しかけるきっかけなんて、なんでもよかった。ただ、こっちを向いてほしくて。
久しぶりに目が合った数秒間は、まるでみくが俺だけのものになったような気がした。嬉しくて、今すぐ抱きしめたくて、もどかしくて、苦しかった。
だけど──。
『職員室で良ければ、今日の放課後相談を受けます。それでいいですか?』
みくは大きな瞳を少しだけ揺らして、でも淡々とそう返した。
吐き気がした。胸が苦し過ぎて。
職員室、ね。俺とふたりきりには絶対ならないってことか。進路相談なんて大義名分を掲げても尚、完璧に俺を拒絶するんだ?
そっか。じゃあもう、打つ手がないね。
なのに、放課後になったらそれでも職員室に向かう俺。バカで不毛で泣きたくなる。
ぺたぺたと上履きのだらしない音を立てながら廊下を進む間、何人もの女子が声をかけてきた。それを全部、顔に貼り付けた笑顔だけでやり過ごして、仄暗い階段を降りた。
『誰でもいいくせに! からかわないで!』
あの日の言葉が頭をよぎる。
違うよ、みく。俺、みくしか欲しくない。
最初のコメントを投稿しよう!