side:Kanata

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放課後。踵を踏んづけたままの上履きで歩く廊下は、まだ全然日が落ちる時間じゃないのに、なんとなく薄暗い。 窓の外に目をやったら、ついさっきまで青かった空いっぱいに、ねずみ色の重たい雲が横たわっていた。今にもぽつりと泣き出しそうで、サイアク、と独りごちた。傘なんか持ってない。 てか、泣きたいのは俺の方。 『……進路がなかなか、決められなくて。先生に相談にのってもらいたいんだけど』 話しかけるきっかけなんて、なんでもよかった。ただ、こっちを向いてほしくて。 久しぶりに目が合った数秒間は、まるでみくが俺だけのものになったような気がした。嬉しくて、今すぐ抱きしめたくて、もどかしくて、苦しかった。 だけど──。 『職員室で良ければ、今日の放課後相談を受けます。それでいいですか?』 みくは大きな瞳を少しだけ揺らして、でも淡々とそう返した。 吐き気がした。胸が苦し過ぎて。 職員室、ね。俺とふたりきりには絶対ならないってことか。進路相談なんて大義名分を掲げても尚、完璧に俺を拒絶するんだ? そっか。じゃあもう、打つ手がないね。 なのに、放課後になったらそれでも職員室に向かう俺。バカで不毛で泣きたくなる。 ぺたぺたと上履きのだらしない音を立てながら廊下を進む間、何人もの女子が声をかけてきた。それを全部、顔に貼り付けた笑顔だけでやり過ごして、仄暗い階段を降りた。 『誰でもいいくせに! からかわないで!』 あの日の言葉が頭をよぎる。 違うよ、みく。俺、みくしか欲しくない。
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