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職員室の前の廊下はより一層暗い。これはアレだ、天気のせいじゃなくて、職員室の持つ負のイメージがそう見せてるに違いない。日直以外で来るのなんて、呼び出しくらった時くらいだし。
なんて、どうでもいいことをごちゃごちゃ考えながら、ガラガラと職員室のドアを開ける。どうでもいいことを考えるのは緊張したからだ。
だって、どんな顔すりゃいいかわかんない。あんな風に思いきりシャッター降ろされて、それでも顔が見たい、話したいなんて。俺、かっこわり。
「寺島、職員室に入る時は『失礼します』だろ」
さっそく物理のウキタに怒られた。やっぱ職員室はやなとこだ。
てか、文系なうちのクラスに物理の授業ないのに、なんで名前と顔覚えられてんだよ。もしかして、俺ユーメージン? 『すぐ女食っちゃう問題児』って?
……笑えない。今すぐ全部帳消しにしたい。それでみくが振り向いてくれんなら。
「シツレイしてまーす。これでい?」
そう言うと、ウキタはフンッと鼻を鳴らした。でも、陰湿なトカゲみたいな顔してるくせに、鬱陶しそうにシッシッとやった左手には、真新しい結婚指輪が光っている。そういやコイツ、新婚だ。
こんなトカゲでも、好きな女を振り向かせたのか。そう思うと、今の自分が心底情けなくなった。
廊下へ出ていったウキタの背中を横目で見送って、俺は深呼吸をひとつ。それから、仕切りみたいに置かれたでかい棚の真裏の国語教師のシマへと、一歩踏み出した。
まじで! なんでこんな緊張すんの。情けねー。
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