side:Kanata

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結局どんな顔していいかわかんなくて、不貞腐れたみたいにしかめ面で棚の向こうに行った。 「みくせん……」 思わず言葉をしまい込んだのは、みくの笑顔が目に飛び込んできたから。みくは隣の席の松井と、やたら楽しげに談笑中だ。 その途端、腹の底から湧き上がってきたのは、嫌になるほどの負の感情。 あんな笑顔、俺には見せてくれないくせに。松井には見せるの? 俺がチャラいから? 近づいたら妊娠しちゃうって? いや、ひょっとして、俺が『生徒』だから? 俺みたいなガキ、興味ないってこと? ああ、それともアレ? みくは松井のこと好きなの? まあ、歳も近いしお似合いなんじゃない? 松井の歳なんて知らねーけど。 あー、ムカつき過ぎてウザイ。 「……あ。小鳥遊先生、寺島来たよ」 挙句、松井の方が先に俺に気づくとか。みくは俺がいつ来るとか、少しも気にかけてなかったってこと? 「え、ああ、寺島くん」 やっと気づいたみくは、笑顔を完全に引っ込め、硬い表情で俺を見上げた。 「あ、じゃあ、えっと……」 「俺の席、使って」 松井が目を細めて立ち上がり、みく先生も「ありがとうございます」と軽く笑みを返す。 ──もう、なんか。限界。 「じゃあ、寺島くん。ここに……」 「やっぱいい。みくには一生相談しねー」 口から飛び出た言葉は、呆れるくらいガキで。 「え? 寺島く」 「帰るわ」 「ちょ……」 俺は慌てて踵を返して、職員室から逃げ出した。 恥ずかしくて情けなくて。もう死にてーよ。 そんな俺を嘲笑うみたいに、昇降口から土砂降りの雨音が響いた。
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