150人が本棚に入れています
本棚に追加
結局どんな顔していいかわかんなくて、不貞腐れたみたいにしかめ面で棚の向こうに行った。
「みくせん……」
思わず言葉をしまい込んだのは、みくの笑顔が目に飛び込んできたから。みくは隣の席の松井と、やたら楽しげに談笑中だ。
その途端、腹の底から湧き上がってきたのは、嫌になるほどの負の感情。
あんな笑顔、俺には見せてくれないくせに。松井には見せるの? 俺がチャラいから? 近づいたら妊娠しちゃうって?
いや、ひょっとして、俺が『生徒』だから? 俺みたいなガキ、興味ないってこと?
ああ、それともアレ? みくは松井のこと好きなの? まあ、歳も近いしお似合いなんじゃない? 松井の歳なんて知らねーけど。
あー、ムカつき過ぎてウザイ。
「……あ。小鳥遊先生、寺島来たよ」
挙句、松井の方が先に俺に気づくとか。みくは俺がいつ来るとか、少しも気にかけてなかったってこと?
「え、ああ、寺島くん」
やっと気づいたみくは、笑顔を完全に引っ込め、硬い表情で俺を見上げた。
「あ、じゃあ、えっと……」
「俺の席、使って」
松井が目を細めて立ち上がり、みく先生も「ありがとうございます」と軽く笑みを返す。
──もう、なんか。限界。
「じゃあ、寺島くん。ここに……」
「やっぱいい。みくには一生相談しねー」
口から飛び出た言葉は、呆れるくらいガキで。
「え? 寺島く」
「帰るわ」
「ちょ……」
俺は慌てて踵を返して、職員室から逃げ出した。
恥ずかしくて情けなくて。もう死にてーよ。
そんな俺を嘲笑うみたいに、昇降口から土砂降りの雨音が響いた。
最初のコメントを投稿しよう!