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side:Kanata
用事があるからムリ、なんて言ったものの、もちろんただの逃げ口実だ。用なんてあるわけもなく、家に帰ればさっそく母親に捕まって、店の手伝い。
この時間、店は夜の部のオープン直前で、店内の清掃やらテーブルセッティングやらだ。営業中で忙しければなにも考えずに済むのに、とため息をつきながら、テーブルの上にシルバーを並べていく。1ミリでもズレると親父がうるさいのに、頭の中はみくのことでいっぱい。
こんなに苦しいなら、いっそ全部なかったことにしたい。キスしたことも、好きだって伝えたことも、好きだっていうこの気持ちも。
もう関わらないようにしよう。担任だから完全にはムリだけど、距離を取ってればそのうち冷める。恋なんてはしかみたいなもんだってなにかで聞いた気がするし。
……って思って、みくから逃げているくせに。その一方で俺は、女の子達を片っ端から切っている。大いなる矛盾だ。
本気だって証明したらワンチャン振り向いてくれるかも、なんて未練がましいにもほどがある。結局ぜんぜん諦めきれない。
──けど、これ以上拒絶されるのが怖くて、みくと向き合えない。
ピカピカに磨かれたスプーンに映る自分の顔は、逆さまで、ぐにゃりとぼやけてて、まるで俺自身の心の中みたい。
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