side:Miku

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『……みく』 スマホから響いてきた私を呼ぶ声。やっぱり電話にでていたのは寺島くんだった。 久しぶりに彼が私の名前を呼ぶのを聞いたら、緊張が緩んで不覚にも涙がでてきてしまった。ホントは教師の名前を呼び捨てにしちゃだめって注意しなきゃいけないのに。うれしいなんて教員失格かもしれない。 通話口から少し顔を離して、指先で涙をぬぐう。それから、どうかちゃんと声がでますように、と祈りながら、もう一度スマホを耳にあてて口を開いた。 「寺島くん?」 『うん』 顔は見えないけれど。その声の感じから少し拗ねたような、それでいて照れた彼の表情が浮かび上がってきて、また涙が出そうになった。 「あの……ね」 『うん』 言い淀んでいるのに、ちゃんと話を聞こうと相槌を打ってくれている。さきほど教室にいたときの、冷たく突き放すような雰囲気は感じられない。胸がきゅっと震えるくらい、うれしい。 「まえ、職員室にきてくれたのに、帰ってしまったから。話ができなくて。でも話したくて、あ、その、進路のことだけど。それで電話したの。いきなりでごめんね」 言いたいことが、いつも以上にうまく言えない。なんだかめちゃくちゃ。それでも寺島くんにはちゃんと伝わっていて。彼は電話の向こうで、微かに笑った。 『……こっちこそ、色々ごめん』
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