150人が本棚に入れています
本棚に追加
小さな声。でもその言葉は私の心にそっとマッチで火をつけたように、柔らかな光を灯す。離れていたはずの寺島くんの心が、私に寄り添ってくれた気がして。やっぱり涙がでてきてしまった。
「……ちゃんと話をしたかったの」
『……うん』
目を閉じて涙をせき止める。耳元できく彼の声は、電話越しでも、まるで抱きしめられているような心地になるから困ってしまう。思わず手のひらをぎゅうと握りしめた。
「……あのとき、できなかった進路相談をしないと」
進路相談だけじゃなくて。もっと話したいこともあるけれど、それは電話では言えない。
でもそんなことも多分、寺島くんには伝わってしまっている。スマホの向こうでくすりと笑う声が聞こえたから。
『俺もしたいけど……職員室でやるのはいやだな』
「どうして?」
『……あいつがいるから』
「あいつ?」
よくわからなくて聞き返すと、私の問いには答えてくれないまま、こういった。
『放課後の教室で話したい。みくの嫌がるようなことは絶対しないって約束する』
真摯な響きの声。それが耳に反響して思わず息を飲んでしまう。なんて言っていいかわからなくて固まっていると、繋がっている電波の先で、彼は小さなため息をついたあと、笑った。
『やっぱり俺のこと、怖いって思っちゃった?』
笑いを含んだ声なのに、泣き出しそうな子供みたいに聞こえて、慌てて反射的に答えた。
「怖くないよ! 寺島くん、だから」
最初のコメントを投稿しよう!