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知らなかった。
好きな人の気持ちを知るのって、こんなにも緊張するもんなんだ──。
期待9割。俺の気持ちを「嬉しい」って言ってくれたから、大丈夫に決まっている。
多分残り1割は不安なんだろうけど、別にそうなる理由なんてない。ただ胸が苦しい。早く知りたい、ちゃんと知りたい。急く気持ちに押し潰されそうだ。
みくの桜色の唇が、ゆっくりと花開く。
こっちを見つめる瞳に何かの決意したような力強さを感じて、俺は思わずゴクッと唾を飲む。
でも、丸く開いたその唇から零れてきたのは、全く予想できない一言だった。
「……ホトトギス」
「……へ?」
俺はぽかんと口を開けた。そりゃそうでしょ、脈絡なしに「ホトトギス」なんて言われたって、なんのことやらだ。
「あ、ごめん。えーっとね……」
みくは唐突過ぎたのを恥じらうように鼻の下を指で擦ってから、小さく咳払いして。
「ホトトギス、鳴くや五月のあやめ草、あやめも知らぬ、恋もするかな」
意味は全然わからなかったけど、授業でいつも聞く、心地いい声だった。そう、それこそホトトギスが囀るみたいな、高く澄んだ声。
「なにそれ、和歌?」
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