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三 きょうのあさごはん
騒音が聞こえる。何か大きな音と人々のざわめきが、何重にも重なったものだ。よく聞くと、誰かが喧嘩しているようだ。数十人、数百人、いや更に大勢の人々が。しかもその声は人間の声ではなく、極めて機械的で感情のない声だ。
「あなた、行ってくるわよ!」
美智代の声で目が覚めたおかげで、俺は気が狂いそうな世界から脱出することができた。できれば窓から差し込む朝日の光で目覚めたかったが、そんなことは言ってられない。朝飯を食ったらすぐに原稿だ。
一階に下りるといつものようにリビングに向かった。テーブルの上に本が置いてある。そのタイトルは毎朝決まって『きょうのあさごはん』という絵本だ。
俺は適当にページを開くと、ひらがなだらけの読みにくい文章を読んだ。
【うさぎさん、うさぎさん きょうのあさごはんは なあに?
くまくんおはよう! きょうのあさごはんは めだまやきだよ】
うさぎさんになった気分で読んでいると、絵本が光ると同時にテーブルにフライパンに載った目玉焼きが現れた。
【ねこさん、ねこさん きょうのあさごはんは なあに?
くまくんおはよう! きょうのあさごはんは トーストだよ】
絵本では笑顔のねこさんと一緒に、トースターからパンが飛び出すイラストが描かれている。くまくんに紹介するつもりで、俺はテーブルの上のトースターを想像した。
チーン、という音とともに、食パンが天井の高さまで飛び上がる。俺はあつあつの食パンを素手でキャッチすると、テーブルに放り投げた。イラストではくまくんの身長くらい飛び上がっていたが、それ以上に高く飛んだ気がする。
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