九 パラレルワールド術力干渉説

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 一瞬、書庫は恐ろしいくらい静かになった。俺はリュックサックを背負いなおすと、「どうなんでしょうか」と付け加えた。青山は顎に手を当てて宙を睨んでいる。乃木坂も腕を組んで目を瞑り、何かを考えているようだ。  一番最初に口を開いたのは館長だった。館長は顔を青山の方に向け、先程以上に真剣な目をしていた。 「なるほど……。青木、RMI研究メンバーをこの場に招集しろ。今すぐにだ」  青木ははい、と答えると、左右を本棚に囲まれた通路を走っていった。 「あの、一体どういうことでしょうか」 俺は恐る恐る訊いてみた。 「我々はこれから、パラレルワールドに出発します。そして向こうの世界の『本』について調査します。大沢さんのおかげで何か分かりそうな気がするのです」  どうやら俺の発言が何かの役に立ったようだ。秀一の件もこれで解決するのだろうか。  メンバーらしき人物たちが集まると、館長も加わり部屋の隅で話し合いを始めた。ヒソヒソ声で話してはいるが、静かな書庫では大体内容は聞き取れる。 「本以外の媒体の存在について……」 「読書念術の影響は……本にのみ……」 「向こうの世界の住民は……」 「いい案がある…………なら……」 「……そんな……はできません」 「ですが、それは……と思います」  いい案がある、という声は館長のものだった。俺たち家族全員は、しばらく放ったらかしにされていた。俺は今更、自分たちがとんでもないことに巻き込まれていることを実感した。
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