九 パラレルワールド術力干渉説

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 俺たちは図書館の地下に居た。この図書館に地下があることは公表されていない。だから俺たちは、三階の廊下の一番奥にあるエレベーターに案内されたとき、心底驚いた。  目の前には、俺の目の高さ程の書見台がある。そこには書庫で見た機密資料が置かれてあるそうだ。そしてその正面に立っているのは、秀一だった。 「我々図書委員の読書念術に、彼の強力な読書念術を重ねることで、ここに書いてあるパラレルワールドに移動することができます」  緊急会議を終えた館長は言った。俺が答えを迷っていると、美智代はすぐに、秀一だけを行かせるわけにはいかない、それなら私達も一緒に行くと言った。どんなときでも、俺は結局美智代の意見を待つだけなのだ。  館長が秀一の隣に立って、本に指を指しながら何か喋っている。秀一はただ頷いているだけだ。  俺はその光景を見ながら、こんなことが本当に上手く行くのだろうかと不安になった。この作戦は館長が提案したものらしいが、当然即却下されそうになったらしい。それを館長がなんとか押し切ったということだ。 「おい。やっぱり、これ、やめにしないか?」 俺は美智代に小声で話しかけた。 「じゃあ、このまま何もしないで見とけっていうの?秀一があんな状態のまま?」  俺は美智代と目をそらして黙り込んでしまう。 「考えてる暇があったら行動しなさいよ」 美智代はそんな俺を見て、悪さをした子どもを叱りつけるように言うと、秀一の方に注目した。俺は黙ってリュックの固定器具をセットすると、同じく秀一の方を見た。 「いいですか。読むスピードは先程言った通りに統一して下さい。それと、何があっても、絶対に本の内容のこと以外を考えないようにお願いします。それでは、これよりRMI説の調査を始めます。」  その瞬間、ついさっき書庫で見たのと同じ様に、周りの景色が歪んだ。驚いて秀一の方を見るが、秀一は資料を見ないように後ろを向いている。その代わり、青木や乃木坂、館長を含めた図書委員らしき人達が、書見台を囲んでいた。彼らは資料に穴が空くほど目を見開いて集中している様子だった。  館長の指示で、香澄を抱えた俺と美智代は、素早く図書委員の輪に入れてもらう。本には、パラレルワールドに行った人達が話したと見られる、パラレルワールドに入っていくときの情景が描かれている。
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